まえがき
2019年12月31日。私は当サイトにて、2019年におけるスーパーマリオ64(以下マリオ64)のRTAをまとめた記事を投稿した。
この記事を書いていた当時は、「話題に事欠かないのは今年(2019年)が最後になるかもしれないなあ」なんて思っていたのだが――。
翌年の2020年も、いくつかの快挙が成されたり、目隠しRTAに注目が集まったりと、2019年に劣らないぐらい盛り上がった年だったのである!
ということで、今回は2020年に起こった出来事を8つの側面から紹介しよう。
マリオ64RTAの情報を追っていた方は「そんなことあったね」と懐かしんでほしいし、追っていなかった方は、このまとめから『2020年におけるマリオ64のRTA』を感じてみてほしい。
【追記】以下の記事で紹介したが、2021年に入り、すでに4つの快挙が成されている。
【世界記録面】タイムの壁が3つも破られた!
まずメインカテゴリの世界記録の変移から見ていこう。
以下が2020年の1月1日と12月31日を比較した表である。(タイムはspeedrun.comより)
カテゴリ | 01/01時点 | 12/31時点 |
---|---|---|
0枚RTA | 06:36.96 | 06:32.15 |
1枚RTA | 07:14.23 | 07:11.93 |
16枚RTA | 15:04.27 | 14:59.33 |
70枚RTA | 47:08 | 46:59 |
120枚RTA | 1:39:05 | 1:38:28 |
結論から述べると『2019年に挙げたタイムの壁が3つも破られる』という大快挙が成された。
どのカテゴリの世界記録も一度は記事にしたことがあるので、なんとなく知っているかもしれないが、改めて紹介する。
2020年も変わらず、Dowsky氏とKANNO氏の戦いが続いた。その結果、9月19日には、Dowsky氏により旧記録より4秒速い『6分32秒15』という世界記録が樹立された。
0枚RTAは『6分台で完走できる』という短さから1秒ですら大きい更新として扱われる。なのにも関わらず4秒も更新したわけなので、その大幅更新っぷりは説明するまでもないだろう。
また、本記録のすごい点はこれだけではない。
この4秒という差だが、新ルートによって生まれた差ではなく、『どれだけ理想に近い走りができたか』によって生まれた差なのだ。
つまりは、2019年に磨き上げられた走りを、さらに磨き上げた結果がこの4秒という更新だったわけで……。詳しくは以下の記事で紹介しているので、ぜひそのすごさを感じてみてほしい。
なお、Dowsky氏は『6分32秒15』を出した2日後に1枚RTAの世界記録も更新しており、その記録では、驚くべきことに『Ultimateサイクル』という超人ルートを使用していた。
上記記事でそのルートのことも紹介しているので、ぜひそちらも読んでほしい。
【追記】2021年1月27日に、KANNO氏によって、0枚RTAの世界記録が『6分31秒52』に更新された。
ネットニュースにもなったのでご存じの方も多いだろう――2020年5月10日にアッキー氏によって人類初の『15分の壁』が破られた。タイムは『14分59秒33』。
本記録がどれだけすごいものかは以下の記事で語り尽くしたので(インタビュー付)、ぜひこちらを読んでほしいのだが、
簡単に話すと、同氏は、本記録を出すために『47,823回』ものリセットを費やしたのだ。
RTAをやっている方も、やっていない方も、この数字を見るだけでどれだけ煮詰めた記録なのかが分かると思う。
また、本記録も0枚RTAの世界記録同様、2019年に磨き上げられた走りを、さらに磨き上げたことにより生まれた記録なので、その点も驚くべきところなのではないだろうか。
ということで、2019年から何名かのプレイヤーによって繰り広げられていた『15分切り競争』も、このアッキー氏の記録により終焉を迎えた。
ただ、更新余地はまだあるようなので、今後も世界記録が更新されることを期待しておこう。
当サイトで取り上げ損ねてしまったが、2020年6月12日にDwhatever氏が『47分の壁』を破った。
同氏は、2019年9月24日に『47分08秒』という世界記録を樹立して以降、更新できない日々が続いていた。しかし、諦めずに走り続けた同氏は、2020年5月あたりから47分切りペースを連発するようになり、ついに『47分の壁』を破ったのだ。
記録動画を見ると、終始静かだった同氏がタイマーをストップした瞬間に叫んでいるのが分かる(47分09秒あたり)。それだけ、47分切りは悲願だったのである。
別サイトにて、この『47分切り』を取り上げたことがあるので、興味の湧いた方は読んでみてほしい。
2020年は上位プレイヤーによる世界記録狙いが活発に行われ、その結果、世界記録が3回更新された。
最初の更新は2月1日の『1時間38分54秒』。cheese氏が出したこの記録は『新ルールでの1時間39分の壁』を初めて破った記録となる。(新ルールの意味はこちら)
同氏はこの記録を賞金付きイベントで出し、当時懸かっていた賞金とイベントの賞金全てを手にすることとなった。その金額は…【賞金面】セクションで詳しく話すことにしよう。
続いての更新は4月1日の『1時間38分43秒』。本記録はLiam氏が手にした記録であり、新たな時代が始まった、そんな特別な意味を持つ記録だった。
なぜ特別な意味があったのか――それは、同氏が120枚RTAの上位プレイヤーに珍しく『理論値を突き詰めるプレイヤー』だったからだ。
詳しくは以下の記事で語ったので、この記事からぜひ”新たな時代”を感じてほしい。
最後の更新は5月29日の『1時間38分28秒』。「1時間38分30秒切りは難しいだろう」、そんなことを言われていた中で、なんと、Simply氏が出してしまったのだ。
本記録の後半パートは非常に噛み合っており、「後半パートのタイムはしばらく抜かれないのではないか」と囁かれているほどである。
この記録以降も、世界記録を狙うプレイヤーはいたのだが、結局、8か月の間誰も抜かすことができないでいる――それぐらいこの記録が『抜かすことの難しい世界記録』として君臨している状況だ。
【追記】2021年1月29日に、cheese氏によって、120枚RTAの世界記録が『1時間38分25秒』に更新された。
以上がメインカテゴリの世界記録のまとめとなるが、実は、これ以外にも特筆するべき記録達があるのだ。次の【記録面】セクションでそれらを語ろう。
【記録面】1時間37分の可能性と1時間40分の壁を破りし猛者達!
2020年7月23日。120枚RTAにて、バトラ氏によって前半パートの世界最速が『1時間02分51秒』に更新された。これにより『1時間37分台』が現実を帯びたのだ。
……どういう意味なのか説明しよう。
当時の120枚RTAの前半・後半パートの世界最速は以下となっていた。
- 前半: 1時間02分56秒
- 後半: 35分07秒
- 合計: 1時間38分03秒
世界記録が『1時間38分28秒』であることから、次なる壁は『1時間38分00秒』なのにも関わらず、前半と後半パートの世界最速を合算してもその壁を破れていなかったのだ。
そして、その壁を破ったのが前半パートを5秒も更新した『1時間02分51秒』という記録なのだ。
世界記録が更新されたわけではないので手放しには喜べないが、1時間37分台の可能性が見えたのはマリオ64RTAコミュニティとしては一歩大きく前進したと言えるだろう。
なお、この出来事の詳細は、以下の記事で紹介している。
さて、ここまでは世界記録に関する話をしてきた。実はこの裏側では、120枚RTAの猛者達による1時間40分切りの奮闘もあったのだ。
2017年5月5日にcheese氏によって初めて破られた『1時間40分の壁』。
この壁を破ったプレイヤーは、2018年12月31日の段階で3名、2019年12月31日の段階で5名しかいなかった。しかし、2020年終わりの段階では……、なんと、4名も増えて9名となったのである。
以下が2019年と2020年の比較となる。
世界記録を狙うプレイヤーだけでなく、あと一歩で世界記録を狙えるような猛者達も、2020年にどれだけ奮闘したのかがよく分かると思う。
また、既に『1時間40分の壁』を破っていたプレイヤー達はというと、並走レベルで1時間39分台を出す実力にまでなっていた。
このこともあり、2019年には分厚かった『1時間40分の壁』も薄く感じるようになってしまった――2020年はそんな年になったのではないだろうか。
【ルート開発面】ペンギンレースの解明と大幅短縮への試み!
2020年におけるルート開発の出来事は大きく4つあった。以下で時系列順に見ていこう。
1月22日に、atmpas氏と私(宇佐美まさむね)によって、ペンギンレースのRTA向けの調整法が提案された。
120枚RTAなどで回収する『さむいさむいマウンテン』の100枚スター+ペンギンレーススターには、後半にペンギンとレースするパートがある。
このパートでは、自分(マリオ)がゴールした後、競争相手のペンギンを待つことになるため、ペンギンのゴールタイムが重要になってくるのだが――。
RTA的に『どうすればペンギンが速くゴールしてくれるか』が不明確だったのである。
それをゲームの仕様から解説・提案したのが上記動画となる。この動画により、『ペンギン調整法』が日々浸透しつつあるのが現状だ。
本内容は『【調査レポート】CCM ペンギンレース』に詳しく書いてあるので、興味の湧いた方はこちらを読んでみると楽しめると思う。
1月25日に、大幅タイム短縮の試みとして『RTAでカーペットレスを実現するための方法』がIsaacA氏によって提案された。
カーペットレスとは、『レインボークルーズ』のお屋敷スターを絨毯を使わずに回収する超高難易度技のことだ。
2019年5月にXiah氏が人力で初成功させたことで話題になったので、ご存じの方も多いだろう。
もし120枚RTAでこの技を決めた場合、40~50秒程度短縮できると言われている――いわゆるロマン技なのだが、上位プレイヤーが何千、何万回かやって1回成功させられるような代物であることから、使われていないのが現状である。
こんな状況の中、IsaacA氏がRTA用のカーペットレスを提案したのだ。
その内容とは、ざっくり述べると、『みずびたシティー』でホルヘイを投げ、
『レインボークルーズ』へ行き、虹船にいるボム兵を消失させ、
お屋敷内へ移動するとボム兵が出現する、
という『HOLP & Instant Release』を用いた方法となる。(画像は上記動画から引用した。)
詳しくは以下の記事で紹介している。
なかなか面白い試みだったが、残念ながら、この方法でも高い難易度はほとんど下がらなかった。そのため、現在も、RTAではカーペットレスは使われていない状況だ。
2020年2月9日。Salt&Ginger氏によって、ぶっこわの新たなセットアップが提案された。
『バッタンキングのとりで』には、『たいほうでぶっこわせ!』というスターがあるのだが、大砲でぶっ壊さなくても回収することができる。これを『ぶっこわ(さない)』と呼ぶ。
ぶっこわを成功させるには、シビアな位置調整が要求されるため、今までは多くのRTAプレイヤーが、橋にぶら下がる方法(セットアップと呼ぶ)を使って位置を調整していた。
このセットアップを紹介する動画は、YouTubeに数多く投稿されているので、一度は目にしたことのあるだろう。(参考動画はこちら)
ただ、このセットアップは仕込みに時間がかかるせいで、普通にぶっこわを決めるのと比べ2秒以上のロスが発生する。
そのため、今の今まで、ロスをできる限り減らしつつ、安定性は保てるセットアップが模索されていたのだ。
そして、Salt&Ginger氏による新セットアップ――通称『Salt式ぶっこわ』が生まれたのである。
大まかなやり方は、崩れる足場に乗る時に視点を調整し、
特定の位置から一段ジャンプ。そのまま橋に引っかけてスターを取る、といった具合である。
詳細は上記動画や『WF Salt Cless for more consistent (2 strats)』を見るのが手っ取り早いだろう。
この案は、発案当初(2月)はSlipperynip氏しか目に留めなかったものの、7月に他のトッププレイヤー達の目にも留まり・試され、最終的に実用化される運びとなった。
7月末にWeegee氏が14回連続でSalt式ぶっこわを決めたことがにわかに話題になったので、記憶に残っている方もいるかもしれない。
5月20日に私(宇佐美まさむね)によって『RTA向けのエレベータ抜け』が提案された。
『みずびたシティー』には、エレベータの上にスターがあり、エレベータの下から無理やりヌメり込んで回収することができる。
これを『エレベータ抜け』と呼んでいて、この技を決めると最大9秒も短縮できる。が、カーペットレス同様に、シビアな入力が要求されるため、RTAでは使えないのが現状だ。
私による提案は、ざっくり言うと、視点と3Dスティックのくぼみ入力を活用して、この技を簡単化するものとなっている。詳しくは上記動画や、その過程を書いた記事を読んでほしい。
この案が出た後、Xoofey氏やSimply氏など、実際に成功させるプレイヤーも出てきたが、簡単になったとは言え、フレーム単位の入力が必要であることから、実用化にまでは至らなかった。
以上が2020年のルート開発の出来事である。
残念ながら、『カーペットレス』『エレベータ抜け』は実用化されなかったが、大幅タイム短縮への試みがあったことは大きな進歩だと言えるのではないだろうか。
【ルート実用面】選択の幅が広がった!
今までのマリオ64RTAでは、『上級者ならこのルート、初心者ならこのルート』のように、決められたルート・アプローチ・チャートなどを使うケースが多かった。
その一方で、2020年は、『上級者でも使うルートが異なる』といった具合に、各プレイヤーがルート・アプローチ・チャートなどを取捨選択するようになった年となった。
この背景には、
- これまでに蓄積された数々のオプションがあったこと
- リスクとリターンを考えてオプションを取捨選択するようになったこと
がある。本セクションでは、2020年に追加されたオプションのうち、特に驚いたものを3つ紹介しよう。
16枚RTAは、お城のロビーでケツワープ(BLJ)を使うか使わないかでカテゴリが分かれており、使わないカテゴリを『通常ルート』と呼んでいる。
2020年3月28日。KANNO氏により、このカテゴリの世界記録が更新されたのだが……。
その記録では、なんと、今までネタだと思われていた『バッタンキングのとりで100赤チャート』(以下の比較動画の左)が採用されていたのだ。
このチャートは、言葉の通り、遅いスター2枚を『バッタンキングのとりで100赤』の2枚に変えるチャートである。
2018年9月頃に初登場したチャートだが、当時は、難易度に対してのタイム短縮量が見合わなかったため、「さすがに採用されないだろう」とネタ扱いされていた。
しかし、2018~2020年の2年間でプレイヤースキルが少しずつ向上し……。ついに、実用化に至ったのである。この2年間の歩みなどは、以下の記事に詳しく書いたので、ぜひ読んでほしい。
一度でも16枚RTAにチャレンジしたことのある方なら、「今はこんなチャートになっているのか!」と驚くこと間違いないだろう。
『にじかけるはねマリオ』における『角度保存ルート』とは、羽マリオの角度が保存される仕様を利用したルートのことである。2019年5月にNebula氏によって発案された。
この仕様の意味が分からないと思うので、軽く説明しよう。
上記動画の序盤に注目してほしい。(以下の画像は上記動画より引用した。)
最初、赤ボム兵の前で右下向きにヒップしているのが分かる。こうすることで『右下の角度』を保存している。
この状態で再び羽マリオをすると、先ほどの『右下の角度』が再現されるのである。これにより、次の大砲の足場までギリギリ届くようになるわけだ。
このルートは、従来と比べ、理論上3秒程度速くなると言われている。
本ステージは、このルートも含め、過去に4つほどルートが発案されていたが、
「終盤のステージ(にじをかけるはねマリオ)で、失敗したらリセットになるルートを取り入れたくない!」
という観点から、大半のプレイヤーが従来のルートを使っていた。
しかし、2020年4月頃になり、1時間39分切り目前のSimply氏が『角度保存ルート』を試し、採用することにしたのである。
これをきっかけに、他の上位プレイヤー達も試し始め、現在、このルートは1つのオプションとして存在している。
『Moving Reds』とは、チックタックロックにて、仕掛けを高速で動かしながら赤コインスターを回収する技だ。
2010年から存在するこの技だが、2019年2月に私(宇佐美まさむね)によって新バージョンが発案されており、それを『Usamune Moving Reds』と呼んでいる。
『Usamune Moving Reds』は、仕掛けを停止する場合と比べ2.2秒程度速く、また、元々の『Moving Reds』と比べ0.7秒速い。
しかし、RTAの通しで使うには難易度が高く、また、『チックタックロック』という終盤ステージで行なわなければならないため、ハイリスク技だったのである。
そのことから、全くと言っていいほど使われる気配がなかった……のだが、2020年5月14日、Dwhatever氏によってこの技が実用化されてしまったのだ。
この出来事は以下の記事で紹介している。2020年のプレイヤースキルを象徴する出来事だったといえるのではないだろうか。
以上が特に驚いたオプション3つとなる。インパクトのあるオプション達なので、ご存じの方が多かったかもしれない。
この他、実用化されたルートに関する出来事は何度か記事や動画にしたことがあるので、気になるものがあれば、時間がある時にでも見てみてほしい。
- なぜ思いつかなかったのか……! 闇の世界のクッパにて更新案が見つかった件 (1月26日)
- 新リカバリ案によりCCM100枚の主流のルートが変わる可能性が出てきた件 (3月24日)
- 時代は固定カメラ?! CCM雪だるまスターにて、究極の処理落ち回避が見つかる! (4月30日)
- 最近実用化されつつある案を3つ紹介 – YouTube (11月9日)
- ちびでかアイランド100枚レースが使えるのかを解説【120枚RTA】 – YouTube (12月11日)
【賞金面】約135万円を手にした男!
マリオ64RTAコミュニティの2020年を代表する出来事として、数多くの賞金企画がある。
例えば、【世界記録面】セクションで紹介した
- 16枚RTAの15分切り
- 70枚RTAの47分切り
には、それぞれドネーション型の賞金が懸けられていたし、『All Signs RTA』や『RTABC』といった物珍しい競技にまで、コミュニティを盛り上げるための一環として賞金が懸けられていた。
※『All Signs RTA』『RTABC』は【エンタメ面】セクションで紹介している。
そんな中でも賞金額が大きかったのが120枚RTAだ。
当サイトで一度紹介したが、2019年末にEZScape氏により『1時間39分切り』に5,000ドルの賞金が懸けられた。この賞金は、2019年中には達成者が出なかったため、2020年にまで縺(もつ)れ込む事態に。
これに追い打ちをかけるように、2020年01月31日。120枚RTAの期間内自己ベスト記録を競う賞金付きのオフラインイベントが開催されたのだ。(イベント名: BREAK THE RECORD: LIVE)
本イベントの詳細は『世界記録更新で13,000ドル(約141万円)! 今週末にあるマリオ64の賞金イベントを紹介!』を読んでほしいのだが、賞金額は以下のようになっていた。
- イベント内で1位を取った人に2,500ドル
- イベント内で世界記録(1時間39分05秒)を破ったら5,000ドル
つまり、もしイベント内で『1時間39分切り』を達成しそのまま1位を取った場合、EZScape氏の賞金も含めて12,500ドル(当時で約135万円)を手にすることになる。
しかし、『1時間39分切り』は単純に難易度が高い上、オフラインイベントであることから普段とは異なる環境でのRTAを強いられる。シビアな入力の多いマリオ64RTAでは、環境差が最大の敵となるのは言うまでもないだろう。
そのことから、誰もが「まさか、イベントで『1時間39分切り』が達成されるわけないだろう」と思っていたのだが……。cheese氏がそれを現実にしてしまったのだ!
実際にイベントで出した記録の動画は以下で、最後(1時間38分50秒あたり)を見てみると、感激のあまりしばらく手で顔を覆っているのが分かるだろう。
この様子を見れば、『世界記録を破ること≒1時間39分切り』がどれぐらい困難だったのかが分かると思う。
かくして、EZScape氏の賞金企画はcheese氏の勝利で終わり、また、各カテゴリごとの『タイムの壁』に対する賞金も終わったので、世界記録に関する賞金企画は2020年で一旦幕を閉じた。
ちなみに、上記オフラインイベントの結果などは、以下の記事にまとめているので、興味の湧いた方はこちらも読んでみると良いだろう。
【エンタメ面】目隠しRTAなどの特殊競技に注目が集まる!
私が2020年を語るならば、必ず挙げるだろう話題がこのエンタメ面だ。これは『人々を楽しませる側面』と言い換えてもよいだろう。
今までのマリオ64RTAは、達人のように極める姿によく注目が集まっていた。それに加え、2020年は人々を楽しませる姿(エンタメ面)にも多くの注目が集まったのだ。
特に注目が集まったのが『All Signs RTA』『RTABC』『目隠しRTA』という3つの特殊競技である。
『All Signs RTA』とは、マリオ64内にある全ての看板を読むRTAのことだ。
2020年2月頃に突如登場したこの競技は、気づけばmeme(ミーム)な競技となり、2月9日には『26分30秒切り』達成者にドネーション型の賞金(初期250ドル)が懸けられた。
面白かったのは、賞金争いの中、日々ルートが更新されたことだ。
多くの特殊競技は、特殊とは言うものの、既存のRTAルートを組み合わせたルートを使うことが多い。
その一方で『All Signs RTA』は、多くの看板が普段RTAでは通らない場所にあるために、本競技専用のルートが日々開拓されたのである。
最終的に777ドル(当時で約8万円)ほどまで膨れ上がった賞金は、2月19日にSimply氏が手にする結果となった。この出来事の詳細は、以下の記事で紹介している。
また、この賞金企画の後、Simply氏により本競技のトーナメントが開かれ、さらなる盛り上がりを見せていた。一部の試合のアーカイブが残っているので、興味があればこちらも視聴してみると良いだろう。
『RTABC』とは、Aボタンを極力使わないようにして最速クリアを目指す競技のことだ。
タイムよりもAボタンの回数が優先される競技なので、マリオ64RTAの中でもかなり特殊な競技と言えるだろう。(Aボタンの回数が少ないほど順位が高い。)
本競技だが、2019年11月に、Pannen氏により賞金が懸けられた過去がある。ただ、その時は、誰もチャレンジすることなく終わるという悲しい結末を迎えていた。
しかし2020年10月29日。リベンジマッチとも言うべきか、またもやPannen氏が本競技に賞金を懸けたのだ。
「世界記録を更新したら『減らしたAボタンの回数 × 50ドル』分だけ賞金を与える」といった内容で、前回から変わらず、bad_boot氏の持つ世界記録『Aボタン35回・4時間45分33秒』からスタート。
本賞金企画の詳細は『RTABCの賞金企画が再び始まった件』を読んでほしいのだが、前回と違ったのは、
- 賞金企画開始時、すでに挑戦しようとしていたプレイヤーがいたこと
- 専用のDiscordサーバで活発にルートの議論があったこと
の2つで、その結果、世界記録が3回も更新されたのである。
- 11月9日 Aボタン29回・4時間41分35秒 by BillyWAR氏
- 11月30日 Aボタン26回・9時間08分49秒 by PurpleJuiceBox氏
- 12月31日 Aボタン22回・ 4時間32分52秒 by PurpleJuiceBox氏
かくして、二度目のRTABCの賞金企画は、一度目とは打って変わって、盛り上がりを見せて終わったのだ。
11月9日のBillyWAR氏の記録に関しては、日本語の解説動画があるので、興味のある方はこちらを視聴してみてほしい。
2020年中、一番注目が集まった特殊競技と言えば『目隠しRTA』だろう。これは、名前の通り『目を隠してRTAをする』という、仙人のような競技である。
【世界記録面】セクションでは「16枚RTAの人類初の15分切りがネットニュースになった」と話した。実はこれに呼応するかのように、その後、『目隠し16枚RTAの世界記録』もネットニュースで話題になったのだ。
その世界記録とは、のぼりごろう氏による『24分03秒』の記録だ。
本記録は、2019年12月4日に達成された記録だが、2020年5月末にネットニュースで紹介されたことで爆発的に注目が集まった。
この記録の驚くべきポイントは、初心者だと30分を切るのにも苦労するカテゴリにて、目隠しで『24分03秒』という驚異的な記録を出していることだ。
また、本動画では語られていないが、全ての動きを辞書のようにパターン化しているのも、驚くべきところだろう。
本来であれば、そのパターン化の詳細やすごさを解説するところなのだが、実は既に解説した動画がある。
これは、2021年1月に開催された『AGDQ2021(海外イベント)』にて、Bubzia氏により『目隠し16枚RTA』が披露されたのだが、それを私が日本語で解説したアーカイブだ。
これを見れば「目隠しRTAでどんなパターン化をしているのか」の一端が分かると思う。
また、この解説の感想として『目隠し16枚RTAから学んだ『音の可能性』を語る』という動画を投稿したので、こちらも合わせて視聴すると、目隠しRTAの面白さが分かるはずだ。
なお、先で紹介したのぼりごろう氏だが、2021年2月に『目隠し70枚RTA』の世界記録も更新している(タイムは1時間26分20秒)。目隠しRTAに興味を持った方はこちらも視聴してみてはいかがだろうか。
以上が特に注目の集まった特殊競技達であるが、この他、
- 全ての青コインを回収する『All Blue Coins RTA』
- 全ての[!]ボックスを壊す『All ! Boxes RTA』
なども話題となった。
ということで、2020年はメインカテゴリだけでなく、特殊な競技にも多くの注目が集まった。
総括すると、「マリオ64RTAには、こんな楽しみ方もあるんだよ」――こんなエンタメ面を伝えられたのが2020年だったのではないだろうか。
【イベント面】レースで盛り上がった!
2020年は、例年以上にイベントで盛り上がった年だったと言えるだろう。特に紹介したいイベントが3つあるので、以降でそれらを紹介しよう。
5月31日と6月1日の2日間で、リレー形式の120枚RTAでレースする『PACE Online 120 Star Relay』が行われた。
参加プレイヤーは4チーム × 7名 = 28名。世界トップクラスのプレイヤーがほぼ全員参加するという超豪華なリレーで、日本からは3名のプレイヤーが参加した。
本イベントの特に面白かった点は、各チームに『人気ストリーマー枠(≒初心者枠)』が用意されていたことだ。
これにより、初心者の面白可笑しいアクシデントがありつつも、ガチな走りも見れるという、贅沢なイベントだったのである。
世界トップクラスのプレイヤーが一堂に会してリレーすることは滅多に無い(おそらく初?)ので、見逃してしまった方はぜひアーカイブを視聴してみてほしい。
アーカイブを見るだけでも、イベント当時の熱狂が伝わるはずだ。
『PACE Online 120 Star Relay』の翌週に行われた『第1回 マリオ64☆16枚RTA初心者大会』もなかなかに面白いイベントだった。
本イベントは、『マリオ64を始めて1年未満の方』と『16枚RTAの自己ベストが19分以上の方(応募時)』を対象に行われた16枚RTAのトーナメントで、計14名が参加した。
アーカイブがあるので、ぜひそちらを視聴してほしいのだが、
初心者大会ということもあり、特に初心者ならではの要素で盛り上がったのだ。
例えば、操作ミスから珍プレイが起こったり、イベントなのに自己ベストペースで走るプレイヤーがいたり、一方的な試合にならず接戦が続いたり、などなど……。
『16枚RTA』という見慣れたカテゴリのはずなのに、それを感じさせないぐらい楽しめた大会だったのである。
また、参加者のうちの半分程度が、本イベントをきっかけにマリオ64RTAを始めたそうで、「もう2020年なのに、まだまだマリオ64に興味持つ方がいるんだなあ」と実感させられた、強く印象に残る大会となった。
最後に紹介したいイベントは、2020年末に開催された『70枚RTAトーナメント』と『120枚RTAトーナメント』だ。
日本国内をメインに開催されたトーナメントで、自己ベスト制限は特に設けられておらず、70枚RTAのほうは24名、120枚RTAのほうは20名の参加があった。
本トーナメントの面白かった点は、第1回戦から決勝まで、何度も熱い接戦が繰り広げられた点だ。
自己ベスト制限を設けないトーナメントだと、上級者が一方的に勝つ試合が多く、接戦になることは少ない傾向にある。しかし、本トーナメントは接戦になる試合が多く、いくつもの名勝負が生まれたのだ。
これは、日本のマリオ64RTAプレイヤー達の腕前が成熟し、実力が拮抗するようになったからこそ生まれた接戦なのではないだろうか。
特に、最後のステージ『てんくうのたたかい!』で勝負が決まるような熱い試合が何度もあり、その度に「どっちが勝つんだ?」とワクワクさせられたのは今でもよく覚えている。
残念ながらアーカイブは残されていないのだが、次回があれば、ぜひ視聴してみてほしい。
以上が特に紹介したいイベント3つで、共通して感じたのは「マリオ64RTAのレースはめちゃくちゃ面白い!」ということだ。
もしかしたら、今後のマリオ64RTAでは、『世界記録争い』に並ぶぐらい『トーナメント(レース)』も盛り上がるかもしれない――そんな予感がしたのが2020年だと思っている。
なお、この他にも、当サイトで一度取り上げた『120枚RTAリレー』なども開催された。
『視聴者向けまとめ』に主要イベントの一覧があるので、アーカイブが残っているイベントを視聴してみるのはいかがだろうか。
【公式面】まさかのSwitchでマリオ64が発売!
マリオ64に関わるものなら語らずにはいられないだろう――2020年9月18日、任天堂株式会社より『スーパーマリオ 3Dコレクション』が発売された。
本コレクションにはマリオ64が入っており、これを『Switch版マリオ64』と呼ぶことが多い。
Switch版マリオ64は、(RTA的には)残念なことに、有名なバグ技『ケツワープ(BLJ)』ができないバージョンだった。
しかし、純粋にプレイする分には問題は無く、発売以降多くの方にプレイされ、ネットでは「羽操作が難しい」「120枚コンプできた」といった様々なプレイの感想があふれ返ることとなったのだ。
このような感じで、2020年になって『マリオ64』に再び注目が集まったわけだが、もちろん、『マリオ64のRTA』にも影響があった。
一番大きかった影響は、本コレクション発売をきっかけに、マリオ64RTAのプレイヤーが増えたことだろうか。
以下は、2020年12月31日時点におけるSwitch版マリオ64の『70枚RTA』の記録リストだ。
Switch版マリオ64から始めた新規プレイヤーも含め、113名ものプレイヤーの記録が登録されているのが分かるだろう。
マリオ64をやり続けている身としては、新規プレイヤーが増えることは喜ばしいことであるし、また、新規をターゲットにマリオ64RTA関連の動画が数多く投稿されるという、良いスパイラルが起こっていたと思う。
また、『スーパーマリオ 3Dコレクション』発売から3週間後、公式より『スゴワザマリオ』という企画が開催された。
「スゴイ!と思わせるプレイ動画をTwitterに投稿して皆とシェアしよう」という企画内容で、まさにRTAプレイヤーのための企画と言っても過言ではないものだった。
企画中に投稿された全てのスゴワザ動画は『#スゴワザマリオ|スーパーマリオ 3Dコレクション』で見ることができる。
一番『いいね数』が多かったのは、AボタンチャレンジTASなどでお馴染みの『Hat in Hand Glitch』を見せた動画だったようだ。(456いいね)
この他にも、多種多様な技が投稿されているので、改めてスゴワザ動画を見返してみると面白いかもしれない。
ということで、2020年は、公式も『マリオ64』というコンテンツを盛り上げた年だったのだ。
むすび
今回は、2020年に起こった出来事を8つの側面にまとめた。
個人的な総括としては、2020年は、
- 【世界記録面】2019年に挙げたタイムの壁が3つも破られ、
- 【賞金面】2019年末からの賞金企画の流れが一旦終わり、
- 【エンタメ面】「こんな遊び方もあるよ!」というエンタメ性にも注目が集まり、
- 【イベント面】レースで盛り上がった、
そんな年だったのではないだろうか。
また、力尽きて書くことができなかったが、個別スターのタイムを競う『ワンスターRTA』でも、
- 『ちびでかアイランド パックンスター』にて、ついにPipe Clipが実用化される
- 『やみにとけるどうくつ ゴロ岩スター』にて、人類初のTASルート成功者が現れる
- 『ボムへいのせんじょう 大砲スター』にて、BLJルートが誕生し成功者が現れる
などが話題になり、”プレイヤースキルの向上”を何度も感じさせられた年となった。
さて、現在は2021年2月なのだが、実は2021年1月中に4つの快挙が成されている。それら快挙を以下の記事で紹介したので、こちらも合わせて読んでいただけたら幸いだ。
スーパーマリオ64のRTAをやっています。
暇な時にマリオ64RTAの解説系動画をYouTubeに投稿しています → https://www.youtube.com/channel/UCDOLszv_4qtFycO6lIM5h2g
マリオ64RTAの情報サイトはこちら → https://www.sm64rta.info/
Simply氏が私のことを紹介してくれました → https://youtu.be/9p8E-XfNSk0 ※英語の動画です
コメント
ルートなのかチャートなのか・・・
『バッタンキングのとりで100枚赤コイン』の話だと思いますが、これは『ルートもチャートも両方実用化された』という内容になります。
2018~2020年の間でプレイヤースキルが向上し、現在120枚RTAなどで使われているルートよりも1段階速いルートがRTAでできるレベルになりました。それにより、16枚RTA通常ルートにおける『バッタンキングのとりで100枚赤コインチャート』も現実味を帯びたのです。最終的に、2020年3月にKANNO氏がその両者を実用化するに至りました。
【ルート実用面】では、2020年に実用化されたオプションを紹介しています。オプションとは、各プレイヤーがリスク・リターンを考慮して取捨選択するアプローチ・ルート・チャートなどを指しています。
『バッタンキングのとりで100枚赤コイン』の話は、このチャート自体が実用化(オプション化)されたことが一番のポイントだったので、その点を中心に書かせていただきました。
が、混乱を招く書き方になってしまったかもしれません。。