2019年、スーパーマリオ64のRTAコミュニティで最も盛り上がったリマッピング問題とは?

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まえがき

NINTENDO64のゲーム、スーパーマリオ64(以下マリオ64)。このゲームの海外のRTAコミュニティでは、2019年6月から9月にかけて、あるひとつの話題で持ちきりだった。

その話題とは、コントローラの入出力のリマッピングをRTAで許可するかどうかという話題である。

この一文だけでは、「良く分からない単語(リマッピング)が出てきたぞ」という方もいるはずなので、本記事ではこの点も踏まえて、どんなことがあったのかを話す。しかし、「答えだけ教えろ!」とせっかちな方もいると思うので、まずは先に要点を述べよう。

要点(結論)を先に話すと

  • 2019年6月。ゲームキューブコントローラ(以下GCコン)を使うことで、海賊の入り江のFrame Walkingを使ったルートが簡単にできるという話が挙がった。そこでは、GCコンバータのリマッピングと呼ばれる機能が使われていた。
  • リマッピングすることに対し、一部のプレイヤーから不満が出始めたので、Simply氏が「ルールを決めよう」と動画で呼びかけ、議論が始まった。
  • 議論の最終的な争点は『リマッピングを実機(N64)のRTAで許可するかどうか』。 有識者の投票により、特定の条件下ならリマッピング許可というルールとなった。ただ、特定の条件に引っかかるため、話題となった方法を用いたFrame Walkingルートは使えなくなった。
  • このルールは2019年9月6日から適用された。それまでに達成された記録(例えば、現在の120枚RTAの世界記録)は受理されたままとなる。
  • このままの状態だと、ルール改定後に世界記録を狙うプレイヤーが不利になってしまうのは明らかである。なので、上記ルールに反した記録は、(受理扱いにしながらも)何かしらの対策が必要だというところで止まっている。

Frame Walkingルートはずっと昔から存在していたのだが……

マリオ64の120枚RTAでは、海賊の入り江で柱を登るルートを使えば、タイムを短縮できることがだいぶ昔から分かっていた。柱の登り方はいくつがあり、その中の1つの方法として、“Frame Walking”というテクニックを使った方法がある。

Frame Walking Tutorial

Frame Walkingのやり方は至ってシンプルで、上入力→無入力→上入力→無入力→上入力→……と3Dスティックを高速入力するだけである。

有志の比較から、Frame Walkingルートのほうが大砲を使うルートよりも5秒程度速くなることが分かっていたので、1秒でもタイム短縮したいトッププレイヤーにとっては、是が非にも採用したいルートだったことだろう。

しかし、2019年6月までの間、120枚RTAでこのルートが使われることはなかった。NINTENDO64のコントローラ(以下N64コン)や、HORIコントローラ(以下HORIコン)でこのルートを決めることがほぼ不可能だからである。

以下が実際にN64コンでFrame Walkingを行なった動画である。(プレイヤーはsaksdal氏)

簡単そうに見えた方もいるかもしれないが、実際にやってみると見た目以上に難しい。難しい点は、3Dスティックを上入力→無入力→上入力→無入力→上入力→……と高速に繰り返すところだ。

n64_controller_with_hand_cam_by_saksdal

こんな背景があったので、Frame Walkingルートは未来永劫使われることはないだろうと考えられていたのだが――。

2019年6月になり、「GCコンを使えばこのルートが簡単にできるぞ!」という話題が海外のマリオ64コミュニティで挙がり、そして、RTAで使えるルートへと変貌を遂げてしまったのである。

GCコンでNINTENDO64をプレイ!?

レトロハード関連の技術が発達したことにより、GCコンの入力をN64用に変換するコンバータが海外で開発され、売られるようになった。

出典: raphnet technologies – GCコントローラー→N64変換アダプター (v3)

このコンバータにはリマッピングという機能があり、例えば、以下のような割り当てができる。

  • GCコンのXボタン に N64コンのAボタン を割り当てる
  • GCコンのXボタン に N64コンの3Dスティックの上入力 を割り当てる

先で「GCコンを使えばFrame Walkingルートが簡単にできる」と話したが、簡単にできるようになった理由が、まさにこの機能にある。

この機能を使えば、ボタンを高速に連打しまくるだけで、上入力→無入力→上入力→無入力→上入力→……が簡単に実現できる――つまりは、Frame Walkingルートが簡単に実現できてしまうのだ。

議論に発展!

この話題は、発見当初は革命のような扱いを受け、一部のプレイヤーはすぐに120枚RTAで取り入れたのだが、一方で、「純正コントローラでほぼ不可能なテクニック(Frame Walking)を使うのはちょっとなー」というような不満もちらほら出始めるようになった。

このような事態を受けて、マリオ64RTAプレイヤーの一人であるSimply氏は、「不満を持たれている中でRTAするのはモヤモヤするだろう」と考え、そして、以下の動画をアップ。これを皮切りに、海外のマリオ64サーバ等に正式に議論の場が設けられることになった。

Framewalk: SM64's Most Controversial Speedrunning Trick

議論では、「純正コントローラ以外を禁止するべき」「リマッピングのみを禁止するべき」等、マリオRTAプレイヤーだけでなく、マリオ64RTA以外の方面からも様々な意見が飛び交った。

意見が出尽くした後、まとめ役だったマリオ64RTAのモデレータ達は、出た意見をうまく3つのルール案へ収束。『どの案にするか』をマリオ64RTAの有識者を対象とした投票で決めることになったのである。

結果: 特定の条件下ならリマッピング許可

投票内容(3つの案)と結果は『RTA Re-mapping Poll Results – Ukikipedia News Week 11 – Ukikipedia News』で見ることができる。今回の投票はリマッピングが対象であり、連射機能やマクロ機能の使用は以前より禁止となっている。

ざっくりまとめると以下の3案で、投票の結果、ルール案2となった。

ルール案1: どんなリマッピングでも許可
ルール案2: 特定の条件下ならリマッピング許可
ルール案3: 別コンのデジタル入力 に N64コンのアナログ入力 を割り当てるのはダメ、それ以外の割り当ては許可

投票方式は、各々に『どのルールにするべきか』に順位をつけてもらう方式(優先順位付投票制)で行なわれた。聞いたことのない方式かもしれないが、優先順位付投票制 – Wikipediaの例を見れば、イメージをつかむことができると思う。

116名が投票し、結果は以下のグラフの通り。

graph img

出典: RTA Re-mapping Poll Results – Ukikipedia News Week 11 – Ukikipedia News

  • 最初の選択で一番多かったのはルール案3だったが、過半数を占めているわけではないので未確定。
  • 2番目の選択を見るとルール案2が最も多い。最初の選択にて過半数を取れたルール案がなかったので、この段階で一番得票率の低かったルール案1と、最初の選択でルール案1に投票された分を排除。
  • ルール案1を最初に選択した人の2番目の選択を残し、ルール案2, 3を集計するとルール案2が過半数を超えるため、ルール案2に決まる。

「そもそも、ルール案の意味がよく分からんぞ」となった方もいると思うので、簡単に説明しよう。

アナログ入力・デジタル入力って何?

N64等のコントローラの3Dスティックは、以下のような感じで、どれだけ倒したかに応じて値が変わる。アナログ入力と呼ばれるものである。(数値はあくまで例)

  • スティックを全く倒さないなら0
  • 完全に倒し切ったなら100
  • 中途半端に倒したら50

一方、N64等のコントローラのボタンは、以下のような感じで、押すか押さないかで値が変わり、中途半端な値を作ることはできない。デジタル入力と呼ばれるものである。(数値はあくまで例)

  • ボタンを押さなかったら0
  • ボタンを押したら100

そして、さんざん言っている”リマッピング”という言葉は、以下の4パターンをまとめた言葉となっている。

(1) 別コンのアナログ入力 に N64コンのアナログ入力 を割り当てる
例. GCコンのスティック上 に N64コンのスティック上 を割り当てる

(2) 別コンのアナログ入力 に N64コンのデジタル入力 を割り当てる
例. GCコンのスティック上 に N64コンのAボタン を割り当てる

(3) 別コンのデジタル入力 に N64コンのアナログ入力 を割り当てる
例. GCコンのXボタン に N64コンのスティック上 を割り当てる

(4) 別コンのデジタル入力 に N64コンのデジタル入力 を割り当てる
例. GCコンのXボタン に N64コンのAボタン を割り当てる

これを先ほどの3つのルール案に当てはめたのが以下となる。

ルール案1: (1)(2)(3)(4)全て許可
ルール案2: 特定の条件下なら(1)(2)(3)(4)全て許可
ルール案3: (1)(2)(4)は許可、(3)は不許可

なぜ、どれも(3)以外は許可されているのかというと、現状のRTAでは、(3)以外のパターンで有利になることがないからである。(今回の話題となったパターンは(3))

ルール案2は意外と複雑?

ルール案2の具体的な2つの条件は以下となっているが、マリオ64RTAをしない方からすると、少し分かりにくいかもしれない。

条件1: RTA開始時に決めた割り当てを変更せずに完走すること。割り当てが同じコントローラ同士ならRTA中に切り替えても良い。

  • ダメな例. 特定のスターではXボタンにN64コンのスティック上を割り当てたGCコンを使い、それ以外のスターではN64コンを使用
  • OKな例1. 最初から最後までXボタンにN64コンのスティック上を割り当てたGCコンを使用
  • OKな例2. 普段はN64コン、クッパ投げのみHORIコンを使用(HORIコンは純正コンと同じ割り当て)

条件2: 別コンの複数ボタン等にN64のアナログ入力を割り当てるのはダメ。別コンの複数ボタン等にN64のデジタル入力を割り当てるのはOK(有利にならないため)。

  • ダメな例. GCコンのスティック上とXボタン両方に、N64コンのスティック上を割り当てる(火種となったリマッピング設定)
  • OKな例. GCコンのAボタンとXボタン両方に、N64のAボタンを割り当てる

一言で述べるならば、火種となったリマッピング設定を用いたFrame Walkingルートは、実機(N64)では使えなくなってしまった。(Frame Walkingルート自体が禁止になったわけではない)

既に受理されている記録はどうする?

今回決まったルールは2019年9月6日に追加されたのだが、これにより新たな問題が発生した。その問題とは、既に受理されている記録で上記ルールに反している記録をどうするか、という問題である。

speedrun.comを見れば分かるが、上記ルールに反している主な記録の中には、以下の上位の記録が含まれている。

  • cheese氏の120枚RTAの世界記録(1:38:51)
  • puncayshun氏の120枚RTAの現2位の記録(1:39:06)
  • LiamKings氏の120枚RTAの現3位の記録(1:39:30)

つまり、現在、世界記録を含めた上位記録を狙うプレイヤーは、Frame Walkingルート無しでFrame Walkingルート有りの記録を抜かなければならないのだ。

本来、ルール改定によって、ルール改定後のチャレンジが不利になるのは避けなければならない。ゆえに、「既に受理してしまったこれら記録に対して、何かしら対策を取らないといけないのでは?」という問題が挙がっていて、近い将来、この問題について議論する予定のようだ。

むすび

今回話したルール関連の揉め事は、マリオ64とは関係のないRTAをしている方でも有益な情報になり得ると思ったので、本記事を書いた。

このような話題は非常にセンシティブだが、定められたルールのもとで勝負するRTAでは曖昧にしてはいけない話題で、今回のモデレータ・プレイヤー達の対応は非常に上手だったと私は感じた。

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