まえがき
3DゼルダシリーズのRTAでは、2020年に入ってから様々な発見が相次いでいる。
先月は『時のオカリナ』で任意コードを実行してエンディングへワープする人力で可能な方法が見つかり大騒ぎとなったが、今度は『ゲームキューブの風のタクト(以下風タク)』で新たな発見があり大騒ぎになっているようだ。
その内容は――「バリアスキップの新しい方法が見つかったこと」。
今回はこの新発見により1時間切りを達成した風タクRTAに迫る!
新世界記録(59分43秒) by Demon氏: https://www.youtube.com/watch?v=YjMNjzdLvD4
※今回取り上げるのはゲームキューブの風のタクトで、WiiUの風のタクトHDとは異なる。
バリアスキップとは?
風タクには、ラスボスのいる最後のダンジョン『ガノン城』へ続く橋に強力なバリアがあり、ストーリーを進めないとこのバリアを解くことができない。
バリアは半透明なものとなっている
出典: The Biggest Skip in Speedrunning History – Barrier Skip – YouTube
逆に言えば、このバリアを突破さえできれば、ストーリーを無視してガノン城へ入ることができるわけだ。
「もし実現できれば、大幅にタイム短縮できるのでは?」と誰もが思うことだろう。
3Dゼルダ界ではこれのことを『バリアスキップ(Barrier Skip)』と呼称し、過去、成功させるための方法が模索されてきた。
しかし、その方法は全然見つからず、気づけばバリアスキップの方法の発見に賞金が懸けられたり、嘘のバリアスキップ成功例動画(釣り動画)がアップされるようにまで発展していた。
それぐらい発見に期待されていたバグ技だったのだが、2019年6月、ついに見つかったのだ!
2019年に見つかったバリアスキップの方法は?
「大革命」とも言われたその方法とは、一言で述べるならば『動的メモリを枯渇させることでバリア自体をロードさせない』というものだ。
これによって、発見からたった1ヶ月ほどで、とにかく最速でクリアを目指す『Any%RTA』の世界記録が3時間48分17秒から1時間台にまで縮んでしまったのである。
この方法の特徴は、メモリを調整するために、バリアにたどり着くまでの間にも様々なことをしなければならないところだろうか。
例えば、森の島では異空間へ行きエサを撒いているのだが、これはメモリ調整のひとつとなっている。
今回の新発見とは異なる切り口であるため、この方法の詳しい紹介は割愛する。
気になる方は『GC版『ゼルダの伝説 風のタクト』タイムアタック研究で大きな一歩。17年にわたり不可能だった“バリアスキップ”が「メモリの魔法」によって達成される』や、先月開催されたAGDQ2020(海外RTAイベント)の動画を見てほしい。
この方法が見つかったことによって、Any%RTAのタイムは徐々に縮んでいき、2019年12月15日には1時間04分50秒という世界記録が打ち立てられた。
ここまで来ると人類初の1時間切りが見えてくるのだが、しかし、残念なことに、この方法ではどんなに頑張っても1時間02分台が限界だったのだ。
そんな状況の中で登場したのが、この後紹介する新しい方法である。
新しい方法はバリアの形状に着目!
2020年1月31日。bowserisbored氏が新たな方法を発見し、3Dゼルダ界に激震が走った。
その方法とは、バクダンにリンクを押し出させるバグ技(Bomb Push)を使ってバリアのシビアな隙間にリンクをめり込ませて突破するという方法だ。
動画がアップされた当初は、リンクの位置調整などがシビアすぎるために「すぐに実用化するのは難しいだろう」などと言われていたのだが……。
なんと、翌日の2月1日には実機でこの方法が再現され、その数日後に人力で再現可能なセットアップが開発された結果、1週間ほどで実用化されてしまったのだ!
新しい方法では『バリアの形状』に着目している。
バリアの橋を上から見たイメージは以下。バリアは1枚の見えない壁で構成されているわけではなく、橋の真ん中付近で見えない壁が貼り合わさっている構成となっている。
出典: The Biggest Skip in Speedrunning History – Barrier Skip – YouTube
このような構成であるため、見えない壁同士が接している部分にわずかな隙間が存在するのだ。
この隙間を狙って、シビアな位置調整などした後にBomb Pushを決めることでバリアを突破するのが新しい方法となる。
仕組みが分かったところで、次のセクションにてBomb Pushを含めた具体的な手順を見てみよう。
具体的な手順を見てみよう!
新しい方法の大まかな手順は以下だ。
- セットアップを駆使し、バリアを突破するための『リンクの位置』『リンクの角度』『アニメーションポジション』を作る
- 『Bomb Push』を決める
具体的な手順を『The Wind Waker Any% Speedrun in 59_43 [World Record] – YouTube』を用いて説明しよう。(動画時間で42分04秒あたりから)
※以下のスクリーンショットは全てこの動画から引用した。
バリアの前に着いたら、バクダンの爆風でダメージを食らってリンクが赤点滅になる状態を作る。
赤点滅のままバリアに近づいて、バリアに弾き飛ばされるタイミングでタクトを出す。すると、バリアに弾き飛ばされずにめり込むことができる。
次にやることは、 橋の壁に寄り垂直のようなカメラアングルにした後、以下の4つの行動をすることだ。
- 剣を振って壁を切りつける
- デクの葉で風を起こす
- 真逆に振り向く
- 9回横っ飛びをする
これらの行動は位置調整のために行なっていて、ミスなくできれば欲しいリンクの位置を手にすることができる。
ちなみに『真逆に振り向く』という行動は、テトラに邪魔されないようにするために行なっている。(テトラとは4枚目の画像に映っているキャラのこと)
続いて、欲しいリンクの角度を作るために、建物の模様を見るという面白いことを行なう。
(1)の後、主観視点にして3Dスティックを真下に倒し、建物を見上げるカメラにする。
カメラを左右に動かすと、画面右下の黒線模様がステータスバーのように左右に動くのだが、右から数えて2つ目と3つ目の線の真ん中にその模様の左端がくるように調整する。
以上がリンクの角度の作り方なのだが、黒線模様がどこなのか分からないと思うので、『NEW Bomb Barrier Skip Tutorial – Zelda_ The Wind Waker Glitches – YouTube』にて場所を示しているパートを切り抜いてみた。
以下の画像にて、マウスの矢印付近の黒線模様がそれだ。
実際に黒線が動いているところをじっくり観察してようやく分かるレベルなので、もしかしたら上記の画像でも黒線模様がどれなのか分からないかもしれない。
気になる方はこの動画の9分あたりから視聴してみてほしい。
バリアスキップを成功させるためには、リンクの体の動き(アニメーションポジション)もフレーム単位で調整しなければならない。
今回開発されたやり方では、バクダンを持ち上げてアニメーションポジションの値をリセットし、カメラの回転とポーズバッファを駆使してタイミングを取っている。以下でもう少し細かく見てみよう。
(2)が終わった後、バクダンを持ち上げると同時にポーズ画面を開く。
Cスティックを真右に倒しっぱなしにしてポーズ画面を解除。カメラがくるくる回る状態になる。
ポーズバッファを駆使して指定のフレームを見切ってポーズ画面を開く。
ポーズ画面を閉じた後、特定のフレームで抜刀する(Bボタンを押す)。するとバリアを突破することができる。
以上が新しい方法の手順であり、最後のパートで行なった『バクダンを持ちあげた状態で抜刀することで、バクダンにリンクを押し出させるバグ技』がBomb Pushとなっている。
新しい方法は、旧方法とは違いメモリを調整するための行動が無いので、色々含めて少なくとも6分ほどは速くなるようだ。
これを聞けば、1時間切りが達成できたのも頷く(うなずく)ことができると思う。
むすび
今回はバリアスキップのみ手順を紹介したが、風タクAny%RTAにはその他の部分にも難しいパートがあり、バリアスキップだけ覚えれば早いタイムを出せるわけではないようだ。
前回の大発見は「時のオカリナの任意コード実行による人力でのエンディングワープ」、今回の大発見は「風タクのBomb Pushを使った新たなバリアスキップ」――次はどの3Dゼルダタイトルでどのような発見があるのだろうか。
※本記事はせーら氏監修のもと、宇佐美まさむねが記事を書いた。アイキャッチ画像のスクリーンショットはすば氏からご提供いただいた。
スーパーマリオ64のRTAをやっています。
暇な時にマリオ64RTAの解説系動画をYouTubeに投稿しています → https://www.youtube.com/channel/UCDOLszv_4qtFycO6lIM5h2g
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まってました感激