1995年にSFCで発売されたアクションゲーム『スーパードンキーコング2』。10年以上の歴史を持つ本作のRTAには、長い年月を経て洗練されてきた数多くのテクニックが存在します。
現在当たり前のように使われているテクニックの裏には、(言うまでもありませんが)開発に携わった人々の努力があります。今回は、本作のRTAに2010年から取り組んでおり、その発展に大きく貢献してきた「ルート研究者」の1人でもある、Kyoro-TM氏に話を伺ってみました(筆者自身も、同氏が開発したルートには日頃からお世話になっています)。本記事では、同氏による発見の中から3つをピックアップして、インタビュー形式で発見の経緯についてご紹介します。
第3位『クラッシュ エレベーター』
— 今回はKyoro-TMさんご自身の発見のうち、RTAに与えた影響が大きかったと思われるものベスト3をランキング形式でお聞かせいただきます。よろしくお願いします(以下では敬称略)。
Kyoro-TM:よろしくお願いします。まず第3位は、『クラッシュ エレベーター』でのカットラスを利用したステージ離脱ですね。
クラッシュエレベーターTASを約60秒更新
RTAで採用できなくもないWINDY WELL TAS 60 seconds
It is difficult, but it can be used in speed run pic.twitter.com/rK1PFXp0bD— Kyoro-TM (@_X_XXX_X_XXX_X_) May 20, 2018
— 数あるステージ離脱の中でも1番最後(2018年)に見つかったものですね。何か発見のきっかけはありましたか?
Kyoro-TM:hidさん(『Arctic Zip』等の発見者)のツイートがきっかけでした。通常のバレルとカットラスを用いたステージ離脱は他のステージで既に実用化されていたのですが、アニマルバレルでもそれが可能であるという情報を目にしたので、実際に『クラッシュ エレベーター』で試行錯誤したところ、実現できました。
— この技が見つかった当時、国内外で多くの走者が触発されてアクティブに記録狙いをしていたのを覚えています。発見後すぐに世界記録も更新されましたよね。
Kyoro-TM:数時間後にはKanisが当時の世界記録を32秒更新する39分08秒という記録を達成するのを見ていましたね。その2日後はV0oidが更に38分37秒にまで記録を縮めました。
— 公開された当初の方法と現在使われている方法は若干違いますよね?
Kyoro-TM:公開後すぐに色んな改善案が出て、最終的にはとさりあさん考案の方法に落ち着きましたね。セットアップの猶予も2桁フレームあります。
(動画は Donkey Kong Country 2 | Any% – 38:18 より)
第2位『ねっききゅうライド』
— 続いては第2位の発見について教えてください。
Kyoro-TM:『ねっききゅうライド』の『真・ぺガサイルート』ですね。アニマル禁止サインを移植して、ステージ後半までサイの『ランビ』で空を飛んでいくというものです。
— 以前、102%RTAの世界記録紹介の記事でも紹介させていただいたものですね。
(動画は [WR] Donkey Kong Country 2 Warpless 49:46 より)
— このルートはどうやって閃いたのですか?
Kyoro-TM:当時は仕事がめっちゃ暇で、仕事中にスマホを触っていたんですね。『DKC Atlas』というサイトでステージマップを眺めていたんですけど、『ねっききゅうライド』の敵配置がいい感じで、ランビを最後まで連れて行けたら速いのになぁと。
— 確かにいい感じですね。
Kyoro-TM:禁止看板さえ動かせたらランビでゴールできる!と思い、帰宅して検証したところ、無を使えばあっさり看板が動いたので、ニコ生で放送しながらルートを組みました。
— その放送は私も見ていましたが、ランビルートを想定されていたかのような敵配置の絶妙さに感動しましたね。 ……ところで、仕事中にスマホを眺めていたことは記事に書いても大丈夫ですか?
Kyoro-TM:当時は本当に仕事がめっちゃ暇だったので大丈夫です(笑)
第1位『クロコ ジャングル』
— それでは最後に第1位の発表をお願いします。
Kyoro-TM:『クロコ ジャングル』での無の取得の儀式ですね。ここでローリングバレルの威力を高めるために行う無の取得は、元々1F技(約1/60秒の精度の入力を要する技)だったのですが、この儀式によって猶予を2桁フレームに伸ばすことに成功しました。
(動画は ダイジェスト:DKC2 102% 1:25:54 より)
— 動画を見ても各手順の意味がよく分かりませんが、どうやって思いついたのですか?
Kyoro-TM:当時は10秒以上の短縮になる1F技だったということで、どうにかして位置調整だけでも安定させられないかと色々試そうとしたのですが、クロバーがいちいち起き上がってくるのが面倒だなと。そこで、ビートルという別の敵が起き上がらないようにする方法は既に知られていたので、それを応用できるのではないかと思いまして。
— それでクロバーを昏睡させてみたら上手くいった、ということですか。
Kyoro-TM:はい。それどころか、元々1F技だったはずなのに、なぜか何度やってみても成功するので、詳しく調べてみたら、何と副産物として技の猶予そのものも伸びていたんですね。
— 意図していた以上の結果が偶然得られたわけですね、凄い……。
Kyoro-TM:猶予が伸びた結果、中間バレル直後でも同様の儀式を導入することで約5秒の短縮が可能になりました。
— 1F技が減るというのは、RTA走者にとっては競技性の観点からとても大きいですよね。
Kyoro-TM:実はここの1F技を何とかしたいと思ったきっかけは、『RTA in Japan』でのあきすさんとふぃすさんのレースで、残念ながら無の取得が決まらなかったことだったんです。この場で1F技が決まっていたとしたら、もしかすると『クロコジャングル』の1Fチャレンジは現在でも使われていたかもしれませんね。
— 大発見に繋がるきっかけには、色々な形があるのですね。今後とも世界中の走者が驚くような素晴らしいルートの開発を楽しみにしています。ありがとうございました。
『SGDQ2020 Online』にてWarplessのRTAが披露されます
本記事で紹介した『真・ぺガサイルート』を用いた、本作のWarplessのRTAが、『SGDQ2020 Online』にて、以下の通り披露される予定です。
日時:2020年8月18日(火)21:59~22:54(日本時間)
走者:とんこつ(筆者)
上の配信は英語で行われますが、以下の通り日本語のリストリームも同時に行われます:
解説(日本語):Kyoro-TM
配信場所(日本語):twitch.tv/japanese_restream
本カテゴリでは、旧世界記録の解説記事でも以前ご紹介したように、『クラッシュエレベーター』をチームアップで登頂するルートが重要ですが、Kyoro-TM氏はこのルートの開発にも貢献されています。多くの走者による研究成果が詰まった大舞台でのランに、是非ご注目ください(以下の動画は本番のアーカイブです)。
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