長い年月の競争を経て魔境と化している『スーパーマリオ64のRTA』にて、前代未聞の出来事が発生した――。
なんと、11月07日~11日のたった4日で、メインカテゴリである120枚RTA・16枚RTA・70枚RTAの世界記録が更新されたのだ。
- 11月07日: 120枚RTA 1時間37分53秒 by Liam氏
- 11月11日: 16枚RTA 14分55秒 by GreenSuigi氏
- 11月11日: 70枚RTA 46分58秒 by Weegee氏
本記事のタイトルを読んだ読者は「何か仕掛けがあるのだろう。例えば、超上手い走者が1人で3カテゴリ更新したとか……」なんて思ったかもしれない。
しかしそうではないのだ。純粋にこの4日間で別々の走者が各カテゴリを更新したのである。
こんな奇跡的な出来事、一体誰が予想していただろうか。現在コミュニティ内ではこの話題で持ちきりの状態だ。
――こんな歴史的な出来事を紹介せずにはいられない。
ということで、今回は各記録にどのような背景があったのかを紹介していこう。今年の世界記録の更新合戦の一端を感じていただければ幸いだ。
【追記】11月24日、GreenSuigi氏により16枚RTAの世界記録がさらに更新された。タイムは『14分54秒15』。
【120枚RTA】Liam氏が前人未到の1時間37分台を達成
11月7日。Liam氏が自身の世界記録を更新し、人類の夢とさえ言われていた『1時間37分台』を達成した。
- 旧世界記録: 1時間38分13秒 by Liam氏
- 新世界記録: 1時間37分53秒 by Liam氏
120枚RTAの世界記録といえば、別の記事で紹介したバトラ氏の『1時間38分21秒』の印象が強い読者も多いはずだ。一体この後何があったのか。流れで確認していこう。
バトラ氏の『1時間38分21秒』は2021年4月9日に達成された。
その後、世界記録争いが終わったかというと答えはノーで、同氏以外の120枚RTAの上位勢は走り続けていた。その理由は1時間38分台であれば狙える範囲にあったからだ。
120枚RTAは前半パートと後半パートに分けることができる。当時、現実的に達成可能だと考えられていたタイムは以下の通りである。
- 前半パート: 1時間03分00秒 (当時の世界最速は1時間02分39秒)
- 後半パート: 35分10秒 (当時の世界最速は35分07秒)
合計すると『1時間38分10秒』。このあたりのタイムであれば、噛み合いさえすれば出すことができるため走り続けていたわけだ。
――しかし、残念なことに結局誰も抜けなかったのである。
バトラ氏の記録が『抜けそうで抜けない世界記録』として君臨し続け、時は8月。
誰もが「もう帰ってこないだろう」と思っていた伝説の走者が復活する――それがLiam氏だ。
helIo
— Liam (@liamkingsTV) August 23, 2021
別の記事で紹介したが、同氏は2020年4月1日に『1時間38分43秒』という世界記録を樹立した走者だ。
この記録の後、1, 2日程度は配信していた覚えがあるが、以降は配信することなく、音沙汰がない状況だった。
そんな同氏が復活し、120枚RTAを再スタートしたのである。
最初はブランクがあったのか1時間50分ほどのタイムを出していたが、徐々に感覚を取り戻し、10月頃には世界記録ペースを連発するようになっていた。
最初に自己ベスト記録を更新したのが10月6日。タイムは『1時間38分34秒』。
本記録は終盤まで1時間38分00秒ペースだったものの、最後のステージである『レインボークルーズ』と『てんくうのたたかい!』で所々ミスした記録となる。
そのこともあり「次こそは世界記録を出すだろう」と言われていて……。
そして迎えた3日後の10月9日。ついにバトラ氏の世界記録を抜いたのである。
タイムは『1時間38分13秒』。バトラ氏の記録から8秒の更新となる。
これだけ聞くと「まだ1時間38分台か」と思うかもしれない。が、実はこの記録、最終ステージ『てんくうのたたかい!』に入る段階で1時間37分49秒ペースだったのだ。
おしくも最後のクッパ投げでグダり、前人未到の1時間37分台を逃してしまった悔しい走りとなっていた。
つまりは、この世界記録の段階でもう1時間37分台達成まで秒読みに入っていたわけだ。
以降の流れは読者の皆さんが想像している通りである。
同氏はこの記録後も走り続け、約1ヵ月後の11月7日、ついに1時間38分の壁を破るに至った。
以上が今回の新記録に至るまでの流れとなる。
Liam氏が今後どこまで世界記録を伸ばすのか、また、同氏と肩を並べ世界記録を狙う者がいつ現れるのか。今後の120枚RTAにも注目したいところだ。
なお、本記録に関しては、『なぜLiam氏がこれだけ早いタイムを出せるのか』というテーマで色々と語りたいところなのだが、それだけで1記事書ける深さがあるため今後機会があれば紹介することにしよう。
【16枚RTA】彗星の如く現れたGreenSuigi氏がWR達成
Liam氏の記録から4日後の11月11日(早朝)。今度は16枚RTAにて、GreenSuigi氏によって世界記録が更新された。
- 旧世界記録: 14分56秒03 by Slipperynip氏
- 新世界記録: 14分55秒13 by GreenSuigi氏
最近は120枚RTAの話題が多く、16枚RTAを追っていた読者は少ないかもしれない。中には「いつの間に14分台が当たり前になったの?」と、驚きを隠せない者もいるだろう。
実は120枚RTAと並行し、16枚RTAでも世界記録争いが起こっていたのだ。
アッキー氏が人類初の14分台を手にした時点まで時を戻し、流れを確認していこう。
別の記事でも紹介したが、アッキー氏が『14分59秒33』を手にしたのは2020年5月10日。
人類初の14分台が達成されたということで、この後しばらく静まるのだが、2021年2月頃から世界記録争いが再熱する。
最初に動きがあったのは2月23日。Slipperynip氏が『15分00秒』を叩き出し、世界記録へ王手をかけた。
この時多くの人々が「このままSlipperynip氏が世界記録を更新するだろう」と思っていたのだが、その思いとは裏腹に、以降同氏はなかなか更新することができず――。
その間に他の上位勢が14分台に迫り、いつの間にか、世界記録争奪戦が始まっていたのだ。
そして6月12日。世界記録争奪戦を制する者が現れる。KANNO氏だ。
同氏が『14分58秒09』を叩き出し、1年ほど続いたアッキー氏の世界記録がついに破られる結果となった。
1年ぶりの世界記録更新ということでコミュニティの人々は大いに盛り上がっていたのだが、この後さらに盛り上がる出来事が発生する――。それは、まるで15分台の呪いが解けたかのように14分台の走者が続々と誕生し始めたことである。
6月24日にはSlipperynip氏が史上3人目となる15分切りを達成。タイムは『14分59秒16』。
さらに、7月4日にはWeegee氏が『14分58秒69』を出し、史上4人目となる15分切りを果たした。
ただ、このWeegee氏の記録は、悔しいことに、一番最後の大スターへのジャンプでミスしたために世界記録を逃してしまった記録となっている。
当時リアルタイムで見ていた人にとっては非常に印象に残る記録だったと思う。
この流れが途切れることなく、8月11日。Slipperynip氏が更に速いタイム『14分56秒03』を出し、ようやく世界トップの座に躍り出たわけだ。
以上が旧世界記録までの流れなのだが、「あれ? GreenSuigi氏はどこで登場するの?」と思った読者も多いのではないだろうか。
意外かもしれないが、同氏は2021年7月頃までの間、世界記録争いから一歩遠い位置に立っていた。
GreenSuigi氏がマリオ64RTAを本格的に始めたのは2020年3月頃。マリオ64コミュニティ的には新しめの走者だ。
当時の16枚RTAのタイムは30分00秒であり、まだ始めたばかりだったことが伺える。本人曰く、この時期は数回通しただけでやめてしまったそうだ。
次に再開したのが2020年7月。ここから怒涛の更新ラッシュで、少しずつタイムを縮めていき……。
そしてSlipperynip氏が『14分56秒03』を出した2021年8月頃には、『15分09秒10』にまで登り詰めていた。
この勢いは止まることなく、9月4日に『14分59秒59』を出し、史上5人目となる15分切りを達成。9月29日には『14分56秒99』を叩き出して世界記録に王手をかける。
そして11月10日。自身初となる単独世界記録『14分55秒13』を出したのである。
【追記】11月24日、GreenSuigi氏によりさらに世界記録が更新された。タイムは『14分54秒15』。
以上が今回の新記録に至るまでの流れとなる。
彗星の如く現れ、2年弱ほどの年月をかけて世界記録を手にしたGreenSuigi氏。こんな短期間でメインカテゴリの世界記録を手にするのは珍しいため、なかなか面白い走者だと感じた。
なお、16枚RTAに関しても『なぜ14分台が当たり前の時代になったのか』など話したいテーマはあるのだが、それだけで1記事書ける深さがあるため今後機会があれば紹介することにしよう。
【70枚RTA】Weegee氏がようやくWRを更新
GreenSuigi氏の記録達成から8時間後(11月11日の午後)。まるで2人から背中を押されたかのように、Weegee氏が70枚RTAの世界記録を更新した。
- 旧世界記録: 46分59秒 by Dwhatever氏
- 新世界記録: 46分58秒 by Weegee氏
この後、コミュニティ内では、4日間で3つのメインカテゴリの世界記録が更新されたことで大盛り上がりとなった。
そのせいであまり注目されなかったのだが……、実はこの記録、70枚RTAの新時代の始まりを告げた、非常に大きい意味のある記録だったのだ。
新時代とは一体どういうことなのか。旧世界記録達成まで時を戻し、流れを確認していこう。
別の記事で紹介したが、Dwhatever氏が『46分59秒』を達成したのは2020年6月12日。
この頃のコミュニティでは「Dwhatever氏の70枚RTAはおかしい、ひとりだけレベルが違う」と騒がれていた。
それもそのはず。同氏は70枚RTAという長いカテゴリにて、短距離カテゴリで採用するルートの一部を取り入れ、そして安定させていたのだ。
詳細は割愛するが、Dwhatever氏が採用した代表的な攻めルートと言えば、『やみのせかいのクッパ 赤コインの月島サイクル』や『チックタックロック 赤コインのUsamune Moving Reds』だろう。
こういった攻めルートの採用や、基礎動作力が高いことから、上位勢でも47分30秒を切るのが関の山だった時代に47分切りという偉業を成した同氏。
「Dwhatever氏が70枚RTAの絶対王者だ」と呼ぶ声も多く、あと2~3年ぐらいは抜かれないのではとまで言われていた。
――こんな破格な記録を、1年と5ヵ月経った現在にWeegee氏が抜いたのである。
Weegee氏は前半パートが早い走者で、実は2020年11月14日時点で46分台ペースを出していた。
以下の画像(47分22秒)がその時の記録であり、46分台ペースである『ほのおのうみのクッパ終了25分切り』を出していることが分かる。
当時、「このままやり続ければ46分台を出せるのではないか」と言われていたのだが、それとは裏腹に記録を更新することができず、時が流れる。
同氏が再び本格的に70枚RTAに着手したのは2021年10月頃。きっかけはおそらく『ESA Break the Record Live 70 Star』という賞金付きイベントの参加が決まったことにあると思う。
本イベントは『招待された走者達が3日間の70枚RTAの自己ベストを競う』というものだ。
同氏はこのイベントに向けて70枚RTAを毎日のように通し始め、10月25日に『47分16秒』を達成。
通せさえすれば『ほのおのうみのクッパ終了25分切り』をほぼ確実に出していたことから、「もう世界記録が更新されてもおかしくないだろう」という状態が続き、その流れのままイベント当日(10月29日)を迎えた。
イベントでは、残念ながら記録は更新できなかったものの、終盤まで世界記録ペースだった走りもあった。
同氏の勢いはイベント後も止まらず。
と少しずつ記録を更新していき……。
そして11月11日。ついに『46分58秒』を出し、世界記録を更新したのだ。
以上が今回の新記録に至るまでの流れとなる。
絶対王者と言われていたDwhatever氏の記録を破った――この事実は、70枚RTAの新時代の始まりを告げたと言っても過言ではないだろう。
今度はいつ・誰かWeegee氏の世界記録を抜くのか……、楽しみにしておこう。
文章量上ここでは語ることができなかったが、実はWeegee氏の他にも記録を伸ばしている上位勢がおり、以前と比べ46分台が現実的になってきているのが現状だ。
その背景には『長距離カテゴリである70枚RTAでどれだけ難しいルートを採用するのか』というテーマがあり、これも面白いので詳しく話したいところなのだが、それだけで1記事書ける深さがあるため今後機会があれば紹介することにしよう。
むすび
120枚RTA・16枚RTA・70枚RTAの直近の歴史を振り返ってみたが、いかがだっただろうか。
どのカテゴリも、世界記録が更新された背景として
- 新たなルートやアプローチが取り入れられたこと
- 主流ルートが進化したこと
などがあるので、本当はそれらもセットで見たほうがより楽しめるのだが、文章量の関係で割愛した。また機会があればその時に紹介する予定だ。
さて、今回紹介した各カテゴリは今現在も世界記録を目指す走者がいる状況だ。
マリオ64RTA走者はTwitchをメインに配信していることが多いので、興味の湧いた方はぜひ視聴してみてほしい。
※Liam氏の画像は全て同氏の記録動画から引用した。
スーパーマリオ64のRTAをやっています。
暇な時にマリオ64RTAの解説系動画をYouTubeに投稿しています → https://www.youtube.com/channel/UCDOLszv_4qtFycO6lIM5h2g
マリオ64RTAの情報サイトはこちら → https://www.sm64rta.info/
Simply氏が私のことを紹介してくれました → https://youtu.be/9p8E-XfNSk0 ※英語の動画です
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