皆さんは、RTA in Japan 2019で披露された「パズルボブル2」のRTAを覚えていらっしゃいますか?
「Vs.Computer(Normal)」という名のおよそNormalとは思えない強さのCPUが印象に残っているという方も多いのではないでしょうか。
RTA in Japan2019 で披露されたパズルボブル2のRTA(RTA in Japan 2019: パズルボブル2)|www.twitch.tv
早いもので、RTA in Japan 2019の開催から3カ月以上が経ち、アーケード版パズルボブル2のVs.Computer(Normal)のRTAも進化を遂げました。
この記事では、イベント開催から今までの3カ月間にこのカテゴリに起こった変化を紹介します。
世界記録の進化 ~7分台の世界記録が3カ月で30秒縮む~
まずは、speedrun.comに掲載されているこのカテゴリの世界記録の変遷をご紹介しましょう。
新規走者参入前の世界記録:9分26秒
このカテゴリに初めて投稿された記録は、2019年1月、speedrun.comのアーケード版パズルボブルシリーズのモデレーターを務めるnick666101氏による9分26秒でした。
その後、同年7月にTokuHer0氏が9分7秒の記録を打ち立てるまで、この記録以外に当該カテゴリの記録はありませんでした。
この走者の少なさは、このゲームがアーケードゲームであり、入手のハードルが高かったことが理由として考えられます。
ところが、2019年2月に家庭用ハード向けに「アケアカNEOGEO パズルボブル2」が発売されたため、入手難易度が大幅に下がり、新規走者が参入しました。
その結果、世界記録は徐々に縮まり、同年9月には7分台まで縮まります。
2019年12月当時の世界記録:7分8秒
そして迎えたRTA in Japan 2019。この時点の世界記録は、同イベントでパズルボブル2を走ったposhi氏が12月25日に達成した7分8秒でした。
2019年末時点の世界記録([Speedrun] Puzzle Bobble 2 / Vs. Computer (Normal) 7:08)|YouTube
この当時、poshi氏以外で7分台の記録を持っていたのは、2019年10月に7分58秒の記録を出したTokuHer0氏のみだったということからも、この記録がいかに早いかが伝わるのではないでしょうか。
なお、パズルボブルのRTAは競技人口が少なく、当該カテゴリには走者が4人しかいないのですが、その話をすると筆者が悲しくなるだけなので今は置いておきます。
記録動画とイベントの動画を見比べると分かるように、このカテゴリで記録を出すには乱数を引き寄せる運と理不尽さに負けない忍耐力、そして何より実力が必要です。
そんな事情もあり、2020年に入ってからしばらくは記録の更新がない平和な時期が続くのですが、3月上旬に革新が起こります。
世界記録は6分台へ:6分56秒
3月4日、7分58秒の記録を持つTokuHer0氏が6分56秒という記録を打ち立て、世界記録を6分台に押し上げたのです。
TokuHer0氏はVs.Computer(Hard)で7分44秒の世界記録を持つ実力者であり、他カテゴリでもposhi氏と世界記録の更新合戦を繰り広げています。
ただし、実力があれば記録が必ず出せるわけではないのがパズルボブルです。
TokuHer0氏のこの記録の場合、ROUND6を22秒、ROUND8を15秒という好タイムで突破できたのが大幅更新の要因と言えるでしょう。
この2つの面は難易度が高く、特にROUND8は精度が求められることから、「人類に不利な面」とも称されます。
以下の画像は、TokuHer0氏が6分56秒の記録を出した際のROUND 8の初期配置です。
この面でCPUに競り勝つためには、どこを消せば攻撃できるのかを冷静に見極め、正確に消して攻撃を送ることが必要不可欠です。
攻撃の発火点を見つけられなかったり、ミスショットで攻撃を送れなかったりすると、あっという間に相手の攻撃に飲まれてしまいます。
今回の初期配置の場合、左のプレイヤー側の盤面を見てみると、左上段にあるオレンジ色のバブルを消せば下のバブルが大量に落とせることが分かります。
運よく5手目でオレンジ色のバブルを引けたものの、角度を間違えれば上から3段目の黄色のバブルに引っかかってしまうため、ミスは許されません。
精度が求められる難しい局面でしたが、落ち着いてオレンジ色のバブルを消したことで、先制攻撃に成功。見事15秒で強敵を撃破しました。
ROUND6とROUND8、この難局を20秒前後で乗り切った実力と運があってこその6分台でした。
6分台前半が見えてきた:6分38秒
TokuHer0氏の7分切りを受け、さらなる世界記録の更新に乗り出したのはposhi氏でした。
実は、poshi氏は過去にこのカテゴリで6分54秒を出したことがあったのですが、録画されていなかったため記録として提出できなかったという過去があります。
「一度でも6分台を出したことがあるのなら、もう一度出すのはそれほど難しくないのでは」と思う方もいるかもしれませんが、そう簡単にいかないのがパズルボブルのRTAです。
前述のとおり、試行回数を積み重ね、運と実力が噛み合ってはじめて記録が出るゲームなのです。
そして遂に迎えた2020年3月27日。その記録はTwitchでの配信中に生まれました。
2020年4月現在の世界記録(Puzzle Bobble 2 / Vs. Computer (Normal) 6:38)|www.twitch.tv
奇しくもこの日は、RTA in Japan 2019の開催初日からちょうど3カ月にあたる日でした。
世界記録の更新ポイント ~1面ガチャを引き当てろ~
さて、そんなこんなで3カ月で7分台の世界記録が30秒も更新されたパズルボブル2のRTAですが、現在の世界記録の更新ポイントはどこにあるのでしょうか。
前述のposhi氏の記録動画を見ながら、更新ポイントを確認しましょう。
更新ポイント① 1面ガチャ
早速パズルゲームらしからぬワードが登場しましたが、世界記録のように6分台を出すためには、最初の面であるROUND1の厳選が欠かせません。
ROUND1の敵の「もんすた」は序盤の敵らしい弱さで、盤面も消しやすい形のため、倒すこと自体はそれほど難しくありません。
ただし、RTAで記録を狙うとなると、もんすたは途端に強敵になります。
実はこのゲームの攻撃は、相手が1回ショットした後に送られる仕様です。さらに、一度にたくさん消すと攻撃が分割され、ショットするごとにバブルが送られるため、一気に大量の攻撃を送ることができません。
そのため、序盤の敵らしくショットが遅めに設定されているもんすたは、こちらが大量に消しても攻撃がなかなか届かず、すんなり負けてくれないのです。
このゲームは全12面構成なので、6分台を目指す場合、1つの面にかけられる時間は平均で30秒ほどです。
もんすたも30秒以内で突破したいところなのですが、トッププレイヤーのposhi氏ですら「30秒を切れるのは体感で2割」と語るこの強敵は、そうやすやすとRTAのスタートを切らせてくれません。
こうして、世界記録を狙うのであれば、もんすたを30秒以内に倒せるパターンを引けるまでリセットを繰り返すという「1面ガチャ」が誕生したのでした。
更新ポイント② 乱数への抗い
パズルボブルというゲームは乱数との格闘ですが、VSモードの場合、その格闘はさらに激しさを増します。
というのも、自分の引くバブルの色だけでなく、相手の行動やお互いの攻撃で送られるバブルの色と位置など、さまざなな要素が乱数によって決まるからです。
この仕様については筆者の個人ブログで紹介しているので、気になる方はご覧ください。
すでに1面ガチャの時点で乱数に大きく左右されているのですが、乱数との戦いは最終面まで続きます。
世界記録を出すためには、これらの乱数にどこまで抗えるかが重要なポイントです。
poshi氏の世界記録の場合、ROUND4、8、9の3つの面で良い乱数を引けたことが、記録更新のポイントと言えます。
3つの中から、ROUND9の様子をスクリーンショットとともに見てみましょう。
ROUND9はスタンダードな初期配置ですが、元の地形を生かした攻撃がしづらい分、攻撃を作るのが難しく、時間がかかりがちな面です。
今回の初期配置の場合、左側に黄色のバブルがまとまっているため、最下段の紫色を消せば大量の黄色が消せるようになり、攻撃が送れます。
したがって、なるべく早い段階で紫色のバブルを引き当て、その後黄色を速やかに引けるかどうかが好タイムで突破する鍵です。
今回は6発目で紫色、12発目で黄色を引くことができ、相手より先に攻撃を送ることに成功。
さらに、他の色を消したことで右側の白がまとめて消せるようになり、15発目で追加攻撃を送れました。
その後も攻撃を送り続け、ROUND9を25秒で突破。
攻撃が送りにくく、30秒以上かかってしまうことが多いROUND9でこのタイムを出せるのは、乱数との戦いに勝利した結果と言えるでしょう。
更新ポイント③ 0.5秒で戦術を組み立てる
パズルゲームのRTAでは、盤面やネクストが表示されてから操作できるようになるまでのカウントダウン中に戦術を組み立てるのが基本です。
しかし、このゲームではカウントダウンすらボタン連打でスキップできてしまうため、走者はごくわずかな時間に盤面と引いたバブルの色を認識し、戦術を考える必要があります。
トッププレイヤーは当然のように瞬時に戦術を組み立てていますが、そう簡単にできるものではありません。
poshi氏の記録動画のROUND4の場合、「初手が黄色、2発目は緑」ということを踏まえて、初手の黄色をどこに打てばよいかを瞬時に判断しています。
最初のバブルを発射するまでの時間を見てみると、画面にバブルが表示されてからカーソルが動くまでが0.54秒、そこからバブルが発射されるまでが0.13秒しかかかっていません。
つまり、「全体を把握して2手先までの戦略を組み立てる」という思考をわずか0.5秒でやってのけ、瞬時に動き出しているのです。
世界記録の今後とまとめ ~まだ更新余地はあるらしい~
走者の努力と忍耐によって、わずか3カ月で30秒も更新されたパズルボブル2のVs.Computer(Normal)。
筆者のような一般のプレイヤーからすればもう手の届かない場所まで来てしまったように感じられますが、poshi氏いわく、「まだ更新余地がある」とのことです。
パズルボブル自体、RTAがそこまで盛んなゲームではなく、このカテゴリも記録が投稿されてまだ1年ほどと歴史が浅いため、まだまだ私たちの知らない更新点が見つかるかもしれません。
今後の走者の努力と忍耐で、更なる記録更新が達成されることに期待しましょう。
ちなみに、この記事が公開された2020年4月6日(現地時間では4月5日)、TokuHer0氏がパズルボブル2のPuzzleというカテゴリで11分54秒の世界記録を樹立しました。
走者も増えてますます盛り上がるパズルボブル2から、今後も目が離せません。
なお、この記事の執筆にあたっては、poshi氏とTokuHer0氏に多大なるご協力をいただきました。
記録動画の引用を快く許可してくださった両氏に、この場を借りてお礼申し上げます。
パズルボブルRTAをやる人。みんなからはタイトーの回し者と呼ばれておるぞ。
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