2020年9月19日。スーパーマリオ64の0枚RTAの世界記録が4.28秒更新された。
タイムは6分32秒15。プレイヤーはDowsky氏。
0枚RTAは、全クッパステージのみを攻略していく非常に短いRTAとなっている。(Any%RTAとも呼ばれる)
そんな短いRTAで、一体なぜ前記録と4秒もの差がついたのだろうか――今回はこの謎に迫る。
世界記録の振り返り
0枚RTAの世界記録は、『6分44秒23』で約3年ほど停滞していた。
しかし、2018年7月。『6分41秒76』という記録が樹立され、停滞が破られたのだ。この記録を出したプレイヤーこそが、今回世界記録を出したDowsky氏である。
停滞が破られて以降は、Dowsky氏とKANNO氏によって、以下のように更新を積み重ね――。そして今回、『6分32秒15』という新記録が樹立された。
- 6分41秒76 by Dowsky氏
- 6分39秒09 by KANNO氏
- 6分38秒76 by Dowsky氏
- 6分36秒96 by Dowsky氏
- 6分36秒43 by KANNO氏
- 6分32秒15 by Dowsky氏 (今回の新記録)
上記のタイムラインを見ると、今までは2秒以下の更新だったのに対し、今回は4秒もの更新であることが分かるだろう。
短いRTAでの4秒は非常に大きいので、「ルートが変わったのでは?」と思った読者もいるはずだ。次のセクションにて、この4秒がどのようにして生まれたのかを見てみよう。
新記録は理想に一歩近い走りだった!
実は、4秒という差は新ルートなどによる差ではなく、『どれだけ理想に近い走りができたか』の差となっている。今回の世界記録は、前記録達よりも理想に一歩近い走りだったのだ。
例えば、第2クッパ・ラストクッパステージに入るパート。このパートでは、超加速するバグ技『ケツワープ(BLJ)』を使って扉などを抜けた後に、四角形の入口(以下の画像)に入る。
新記録を見てみると、一発でケツワープを決めるのはもちろんのこと、勢いのまま直接入口に入っていることが分かるだろう。直接入ることで、入口までの移動をカットしているのだ。
新記録では、ケツワープで直接入口に入っている。入口までの移動がなくなるため、タイム短縮になる。(画像は※の3:03と5:08より)
その他、第2クッパステージでは、うまく最適化しないと成功できない『Ultimateルート』を決めていることも分かる。これにより、このルートを決めない場合と比べて、1.5秒前後のタイム短縮となる。
ステージ終盤にて、中央を通るのが特徴の『Ultimateルート』。ステージ中盤までの道のりが最適化できていないと成功しないので、上位プレイヤーでも安定させるのが難しいと言われている。(画像は※の3:30より)
前記録達は上記のような要所でミスが見られたが、新記録ではしっかり決められており、結果として4秒の更新に至ったのだ。
今話した内容は新記録の一端に過ぎないが、これだけでも『0枚RTAがどれだけ洗練されているのか』が伝わったのではないだろうか。
更新余地はある?
前のセクションでは、4秒の差が生まれた理由と共に、新記録のすごさを説いた。「完璧な走りだったってこと? もう更新できない?」と疑問を抱いた読者もいるかもしれない。
今回の世界記録が、かなり速い記録なのは間違いないだろう。しかし、まだ更新できる余地があるのだ。本セクションにて、代表的な更新余地を3つ紹介しよう。
(1) クッパ投げ
新記録では、クッパ戦にて、クッパを少し多めに回している箇所がある。
分かりやすいところは『ラストクッパの2回目・3回目のクッパ投げ』だろうか。
前記録では『1周+4分の1回転』で投げているが、新記録では『2周+4分の1回転』で投げている。つまり、新記録は計2周分多く回しているため、計1秒以上のロスとなっている。
KANNO氏による前記録と見比べると、多く回しているのが分かる。(画像は※の5:50~より)
(2) 目立ったミス
理想に一歩近い新記録においても、いくつか目立ったミスが存在する。
代表的なのは『50枚スター扉後の階段登りのミス(以下の画像)』。これが、1~2秒程度のロスになっていると思われる。
つまりは、現行のルートでも、より理想に近い走りができれば『6分30秒』を切れることになる。
新記録では、50枚スター扉後の階段登りパートにて、壁キックしてしまっている。(画像は※の4:58より)
(3) 新ルート
実は、新記録では使われていないルート(いわゆる新ルート)も存在する。本サブセクションにて、代表例を3つを紹介する。
(3)-1 LBLJよりも速い『LSBLJ』
最初お城に入った後、ロビーの柱裏でケツを溜める技を『LBLJ(Lobby BLJ)』と呼ぶ。
LBLJとは、お城のロビーにある柱の裏側に入った後、ケツワープして扉を抜ける技。(画像は※の1:14より)
マリオ64RTAでお馴染みと化しているLBLJだが、実は、これよりも速い『LSBLJ(Lobby Stair BLJ)』という技も存在し、2020年にセットアップが発案されたのだ。
『LSBLJ』とは、ロビー横にある階段でケツワープ(BLJ)する技で、3秒前後速くなると言われている。(以下のツイート参照)
まだ案の段階で実用化されていないものの、RTAの序盤に行なうためにリセットが効きやすいことから、将来的に使われる日が来るかもしれない。
updated lsblj comparison
setupless: 8"00
salt setup: 8"93
lblj: 12"76
lblj could be done a bit faster but no one's gonna get a perfect lblj on every single run
clipping with one air blj is also possible but again that's very hard to do even if you're good at mashing pic.twitter.com/kCZUyAP89Y— xAndru! (@xandruuu) August 28, 2020
(3)-2 第1クッパステージの『三角足場登りルート』
2019年11月に、ステージ中盤にある『三角足場(以下の画像)』を登るルートが発案された。
当初は、このルートを通るのに、N64コントローラでは実現が難しい『Frame Walking』というテクニックを用いる必要があったが、改良された現在は、そのテクニック無しで登ることができるようになっている。
このルートを使用すると1秒程度速くなると言われているが、難易度などを理由にまだ実用化されていないのが現状だ。
(3)-3 ラストクッパステージの『Ultimateサイクル』
ラストクッパステージの序盤・終盤にある回転リフトは、ステージ入ってからの固定周期で動いている。
4つの足場がぐるぐる回っているオブジェクトを『回転リフト』と呼ぶ。1つの足場に乗り遅れるにつき約1.4秒遅れるため、RTAではどの足場に乗れるかがカギとなる。(画像は※の5:25より)
『Ultimateサイクル』とは、この回転リフトにて、今までのRTAルートよりももう1周期速いのに乗るルートのことである。これにより、1.4秒程度のタイム短縮になる。
実は、このルートは、新記録の2日後に更新された1枚RTAの世界記録(by Dowsky氏)にて使われている。
「RTAでそんなめちゃくちゃなルートを使うのか!」と驚いてしまうこと間違いないので、ぜひ視聴してみてほしい。(以下の動画の5:51から)
むすび
今回は、7ヵ月ぶりに更新された0枚RTAを取り上げた。
「更新余地はまだあるので、将来的に『6分30秒』の壁を破る可能性は十分ある」――0枚RTAがこのような状態になっていることが伝わったのなら、書いて良かったと思う。
今回は詳しく紹介しなかったが、Dowsky氏やKANNO氏は特徴のある面白いプレイヤーなので、Liam氏・アッキー氏と続いて、いつか彼らのことも紹介するとしよう。
さて、少し別の話になるが、最近、特定の座標の水中に立てるバグが見つかり、「これをうまく使えばAny%(0枚)を更新できるのでは?」と話題になった。(以下のツイート参照)
このバグを利用した新たな更新案が生まれたとしたら……。まだまだ目が離せない0枚RTA、今後も更新されることを期待したい。
※: 『6 32 15 – YouTube』から引用。
スーパーマリオ64のRTAをやっています。
暇な時にマリオ64RTAの解説系動画をYouTubeに投稿しています → https://www.youtube.com/channel/UCDOLszv_4qtFycO6lIM5h2g
マリオ64RTAの情報サイトはこちら → https://www.sm64rta.info/
Simply氏が私のことを紹介してくれました → https://youtu.be/9p8E-XfNSk0 ※英語の動画です
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