はじめに
本記事は『RTAGamers Advent Calendar 2021』最終日の記事になります。今回は『マリオ&ルイージRPG2』世界記録の歴史について紹介します。
『マリオ&ルイージRPG2』は、2005年にDSで発売されたブラザーアクションRPGです。悪役のゲドンコ星人がキノコ王国を容赦なく蹂躙していくストーリーが、マリオシリーズ最恐との呼び声も高い作品です。RTAにおいては、入力猶予の厳しいブラザーアタックや難度の高いグリッチをいかに安定して決められるかがタイムを大きく左右するなど、アクション要素が強めの競技性を持っています。
本作のRTAに関する詳しい基本情報は、筆者による以下の記事をご覧ください。
世界記録の歴史
本節では、本作のAny%世界記録の更新の歴史を、大きく3つの時代に分けて紹介します。
グリッチレス時代
本作RTAの最も古い記録は、2013年のAnwonu氏による4:31:22というランです。当時はダンジョンをスキップするようなグリッチは未発見のまま眠っていましたが、唯一、Money Glitch(2011年に同氏が発見)だけは多額のコインを生み出す方法として活用されていました。
その後4:28:48へと記録を更新したAnwonu氏は、使用カートリッジを北米版から日本版へと切り替えました。北米版はその他のバージョンと比べてボスのHPが軒並み高く、ボス戦でより多くの時間がかかるためです。日本版の恩恵を受けて、同氏は2014~2015年にかけて4:22:24、4:22:13、4:18:16、4:14:12と記録を更新していきました。
2017年2月、Anwonu氏の記録を破る1人の日本人走者が現れました。新記録はPopirea(みっと)氏による4:13:04です。ニコニコ動画に解説付きでアップロードされたこのランは、本作のRTAがグリッチにより破壊される前の最後の記録となりました。
大開拓時代
時は2017年4月30日。ペーパーマリオRPGを壊すグリッチを発見した実績を持つSolidifiedGaming氏とReally_Tall氏が、本作への取り組みを開始しました。はじめのうちは両氏の発見は実用にならないものばかりでしたが、すぐに状況は変わり始めました。
最初の大きなスキップが発見されたのは、5月5日のことです。Top Screen Storageと呼ばれるグリッチを利用したカメック戦スキップで、4分ほどの短縮になりました。その翌日には同じTop Screen Storageによるヨースター島のパズルスキップも発見され、さらに数分短縮されました。
続く5月7日にはBaby Cake Spinと呼ばれるグリッチの応用が複数見つかりました(ゲドンコ城のパズルスキップ、ゲドンコ城の暗闇部屋スキップ)。この発見はゲドンコ城のルートを大幅に変えることとなりました。また5月11日には、スターの神殿のパズルスキップも発見されました。
発見はまだまだ続きます。5月13日、Ledge Clipが導入され、後に多くのダンジョンで使われる汎用的なグリッチとなりました。5月17日にキノープルの森におけるリフトスキップが、6月17日にはキノコタウンスキップが発見され、次々に本作のRTAは壊されて行きました。
この一連の発見を受けて、6月17日にAnwonu氏が動き出します。数々のグリッチを取り入れた最初の記録は、4:03:08というタイムでした。この記録に挑戦したのが、現行の世界記録保持者であるSnoion氏です。4:02:57という記録で初めて世界記録を手にした同氏は、7月13日に初の4時間切りとなる3:59:03というタイムを叩き出しました。
その後もダンジョン内を短縮するグリッチが発見されるにつれ、走者の頭の中ではあるグリッチの発見に対する期待が膨らんでいきました。それは、本作の攻略ルートを根本から覆す革命「ゲートスキップ」です。
ゲートスキップ時代
本作では、ラストダンジョンに相当するゲドンコ城の入口に序盤で到達することができます。ただし入口はゲートで閉ざされており、世界各地に散らばったコバルトスターのかけらを5つ集めるとゲートが開かれる、というのが基本的なストーリーの流れです。
「では、ゲートが閉ざされたままのゲドンコ城に侵入することができたら……?」
この非常にシンプルな疑問を解くカギは、8月29日にようやく見つかりました。マリオとルイージがブラザーボールというアクションを組む際に8ピクセルだけ後退する挙動が発見されたのです。2日後、この事実を利用して、ついに待望のゲートスキップが発見されました。
このゲートスキップの発見をもって、どのようにラスボスであるゲドンコ姫を倒すのが最適か、ルートを構築する作業が始まりました。ゲートスキップを使った最初の記録は、9月10日のAnwonu氏による3:33:20です。この記録ではグレートPOWバッジという比較的序盤の装備でゲドンコ姫に挑むルートが使われましたが、ラスボス戦だけでも50分近くに及ぶことから、より良いルートがあるだろうと思われました。
その後の1週間は、主にLedge Clipによる複数の大きなスキップの発見が相次ぎました。これを取り入れたSnoion氏は、9月18日に3:25:39という記録を達成しました。この記録ではリスキーバッジという終盤装備を手に入れるためにストーリーを長くプレイする代わりに、ラスボスを速攻で撃破するというルートが使用されています。
序盤装備、終盤装備と来て、最後に検討されたのが、中盤装備であるピンチパワーバッジでした。Snoion氏はこのバッジを使って3:04:37というタイムを達成しました。リスキーバッジよりも50分ほど早く手に入るうえに、リスキーバッジの8割ほどの火力を出せるのがピンチパワーバッジのメリットですが、その反面、発動条件が厳しい(HPが1/4以下のとき攻撃力2.5倍)ためにラスボス戦が大幅に難化するというデメリットがあります。
ここからは、ピンチパワーバッジルートを極め続けたSnoion氏による更新の歴史となります。
2017年12月4日:2:58:14
2017年12月9日:2:43:34
2018年1月8日:2:43:23
2018年3月3日:2:40:45
2018年3月12日:2:38:02
2018年9月26日:2:36:43
2:36:43というタイムは、現在の世界記録です。この記録はDSで達成されたものですが、WiiU VC版の方がロードの関係で数分早いことが知られています。しかし、WiiUの入力遅延のせいで、主にブラザーアイテム関連のアクションが非常に難しくなってしまいます。Snoion氏はWiiUを用いて記録更新に挑んだこともありますが、未だに2:36:43という記録は破られていません。
今後の展望
本稿執筆時点でのリーダーボードを見ると、Snoion氏の記録は圧倒的に見えます。同氏曰く「細かいミスの多い記録なので、少なくとも2:32までは改善できるだろう」とのことなので、今後同氏に匹敵するテクニックを持つプレイヤーが現れれば、さらに記録が詰められていくことになるでしょう。
また、2017年以来ほぼ変わっていない現行ルートですが、もし実用化されれば記録が大きく縮むだろう、と言われているグリッチが2つあります。1つ目はザラザラ砂漠スキップです。これはエミュレータ上では確認されているものの実機では再現されていないため、あまり有望視されていません。
2つ目はキノコタウンショップへの逆走です。序盤の段階でキノコタウンの出口からショップまで逆走するような壁抜けがもし見つかれば、最強装備であるリスキーバッジが速く手に入ることになり、大幅な短縮になります。しかしキノコタウンへの侵入自体は発見されているものの、ショップが存在する奥の場所に到達するまでには抜けるべき壁がまだまだ存在しており、難しい状況です。
ここ数年停滞している本作のRTAですが、次の記録更新はどんなプレイヤー / グリッチによってもたらされるのか、非常に楽しみです。
最後に、本記事の執筆にあたって詳細な資料を提供して下さったGhostKumo氏に感謝申し上げます。ありがとうございました。
コメント