皆さんは、ニンテンドーゲームキューブというゲーム機を知っていますか?
任天堂から2001年に発売されたこの据え置き型のゲーム機は、約1.4kgの四角い形状で取っ手が付いている点などから、一部のファンの間では「鈍器」の愛称で親しまれています。
据え置き型のゲーム機は通常床などに置いて遊びますが、世の中には「鈍器」とも称されるこのゲーム機を振ってRTAをする人が存在するのです。
なぜ人は鈍器を振るのか。今回は、その理由とともに、ゲームキューブを振って操作するゲームのRTAを紹介します。
なぜゲームキューブを振るRTAが存在するのか
ゲームキューブを振るRTAでは、実のところ、ゲームキューブ用のゲームをプレイしているわけではありません。
ゲームキューブには「ゲームボーイプレイヤー」という周辺機器があり、ゲームボーイアドバンス・ゲームボーイ・ゲームボーイカラーのソフトが遊べます。
これを利用して、ゲームボーイアドバンスとゲームボーイカラー用に発売された回転センサー付きのソフトで行うRTAが、今回紹介する「ゲームキューブを振るRTA」です。
ゲームボーイプレイヤーを使う際には、ゲームキューブの本体にソフトを刺す必要があることから、回転センサーを動かすためにゲームキューブ本体を振る羽目になるのです。
ここまで説明すると、「わざわざゲームキューブでやらなくたって、ゲームボーイカラーやアドバンスを使えばいいのに」と思う方もいることでしょう。
確かに、普通に遊ぶだけであれば問題ありませんが、記録を証明するためにプレイ中の映像が求められるRTAではそうはいきません。
現状では、ゲームボーイカラーやゲームボーイアドバンスの本体から直接映像を取り込む方法はほとんどなく、本体を動かして操作するゲームでは画面を直接撮影するのも非現実的です。
その結果、映像がパソコンに取り込みやすく、記録をspeedrun.comなどのリーダーボードに申請しやすい方法を模索した結果、ゲームキューブを振らざるを得なかったのです。
ゲームキューブを振り回すRTA3選
一見滑稽にも見える「ゲームキューブを振り回すRTA」の走者が、ゲームキューブを振るに至った理由について、ご理解いただけたでしょうか。
ここからは、ゲームキューブを振り回すRTAを、動画とともに紹介します。
コロコロカービィ
コロコロカービィは、2000年8月に任天堂から発売されたゲームボーイカラー用のソフトです。
ソフトに搭載されたセンサーカートリッジが傾きを検知するため、プレイヤーは本体を傾けることでカービィを操作します。
2019年末に行われた「RTA in Japan 2019」や、2020年3月の「カービィシリーズタイトルRTAリレー2」でも採用されたタイトルなので、知っている人も多いのではないでしょうか。
こちらの動画は、RTA in Japan 2019の様子です。
カービィとお揃いのピンク色のゲームキューブがとてもかわいらしいですが、走者本人の「このゲームで大事なのはフィジカル」という言葉からも、ゲームキューブ本体を振るRTAがハードであることが伺えます。
今作は、ギミックの解除にAボタンが必須のほか、十字キーの操作も求められます。そのため、ゲームキューブ本体だけでなく、コントローラーの操作も必要です。
通常のゲームであればコントローラーの操作は難しいものではありませんが、ゲームキューブ本体を振らなければならない今作では、「コントローラーをどう操作するか」は重大な懸念材料です。
RTA in Japan 2019で今作を走ったはるとも氏は、手が小さい(本人談)こともあり、コントローラーは足で操作しています。
安定して本体を持てるメリットがあるものの、必要な場面でしっかりとAボタンを押すべく、足の指をAボタンの少し上でキープさせ続けなければならないのがデメリットです。
腕の筋力だけでなく、脚の筋力まで必要という点が、見ていて痛快なRTAです。
speedrun.comに掲載されているこのゲームのカテゴリは、全部で3種類です。
- Any%……最速でクリアするカテゴリ。各ステージの評価は問わない。
- All Levels……全てのステージで一定以上の評価を取ってクリアするカテゴリ。
- 100%……ハードモードを含む全ステージで最高評価を取ってクリアするカテゴリ。
2020年3月現在、この全てのカテゴリでswordsmankirby氏が世界記録を保有しています。
解説動画を見てみよう
フィジカルが最も重要で、上半身だけでなく下半身の筋力も求められるコロコロカービィのRTA。もっと詳しく知りたいと思っている人もいるのではないでしょうか。
そんな皆さんのために、今作のAny%で日本1位(世界4位)の記録を持つYUKING氏が、解説動画を投稿してくれています。
ゲーム画面では、壁となるブロックを飛び越える技や時間のかかるボーナスの回避など、RTAらしいテクニックが数多く披露されます。
一見すると普通のゲームですが、右枠を見ると、この緻密な操作がゲームキューブ本体を振ることで行われていたという事実を再認識させられます。
先ほど「コントローラーの操作方法は懸念材料」と説明しましたが、その最適解は走者によって異なります。
YUKING氏は、右手に持ったコントローラーでAボタンを操作し、十字キーはダンスダンスレボリューションのマットコントローラーを使って足で操作するという方法でこの問題を解決しています。
走る前からすでに走者の個性が垣間見えるのが、コロコロカービィRTAの面白いところですね。
ヨッシーの万有引力
ヨッシーの万有引力は、2004年12月に任天堂から発売されたゲームボーイアドバンス用のソフトです。
その名のとおり、本体を傾けることで引力を操り、さまざまな仕掛けを解いて進んでいくアクションゲームです。
遊ぶハードによってソフトを刺す位置が異なるため、遊ぶ前にハードを選択する必要があるのが特徴です。
実は、ヨッシーの万有引力のホームページには、「ゲームボーイプレイヤーでは遊ばないで下さい」と明記されています。
発売時期がニンテンドーDSの発売から3カ月後ということもあり、DSでのプレイは想定されているものの、さすがにゲームボーイプレイヤーでのプレイまでは想定して開発していなかったようです。
そんな中、知ったことかと言わんばかりにゲームキューブ本体を振ってこのゲームを走っている様子からは、RTA走者のストイックさが感じられます。
speedrun.comに掲載されているこのゲームのカテゴリは、全部で2種類です。
- Any%……最後のボスであるクッパを最速で倒してクリアするカテゴリ。
- Fake Bowser’s Fields……ゲーム中盤に出てくる偽クッパを最速で倒すカテゴリ。
2020年3月現在、100%のカテゴリが存在しません。
ミッションを達成すると得られる「金メダル」という収集要素があるにはあるのですが、ゲーム内ではミッションの内容が明かされないうえに難易度が高いことから、挑戦しようと思った人がいなかったのかもしれません。
世界記録を見てみよう
さて、こちらのゲームはspeedrun.comに記録を登録している日本人走者がいないこともあり、RTAの解説動画が作成されていません。
ですが、このまま次のゲームの紹介に移るのもさみしいので、両カテゴリで世界記録を持っているDanzaiver00氏のAny%の動画を見てみましょう。
Danzaiver00のYoshi TT/UG (GBP) in 50:54をwww.twitch.tvから視聴する
左上のカメラの映像を見ると、両手でコントローラーを持ち、本体を傾ける際には太ももで操作しているのが分かります。
なるほど、その手があったか……!
また、この動画にも書かれているとおり、全てのゲームボーイプレイヤーでヨッシーの万有引力が遊べるとは限らないようなので、走ってみたい人はご注意ください。
まわるメイドインワリオ
まわるメイドインワリオは、2004年10月に任天堂から発売されたゲームボーイアドバンス用のソフトです。
メイドインワリオシリーズの3作目にあたる今作は、本体を回して行う操作に加えて、シリーズならではのテンポの良さが特徴です。
プチゲームはどれも数秒で終わってしまうほど短く、RTAでなくても操作がせわしないゲームです。
このゲームのRTAをゲームキューブ本体を振って行う場合、鬼門はミックスステージです。
今作はステージごとにプチゲームのテーマが決まっているため、回転で操作するのかボタンで操作するのかがある程度分かっており、対策も比較的容易です。
しかし、ミックスステージではランダムにプチゲームが出てくるため、タイトルが出てから操作が可能になるまでの1秒ほどの間に要求される操作を理解し、本体とコントローラーのいずれかを操作しなければなりません。
ゲームキューブ本体を振れるほどの筋力に加えて、瞬時の判断力が求められるRTAです。
ちなみに、前述の2作品が本体の傾きを検知するセンサーを搭載しているのに対して、まわるメイドインワリオは回転の加速度を検知するセンサーを使用しています。
そのため、ヨッシーの万有引力のようなハードの選択が必要なく、どのハードでも設定をせずにプレイできます。
speedrun.comに掲載されているこのゲームのカテゴリは、1種類のみです。
- Any%……最速でクリアするカテゴリ。
メイドインワリオシリーズの他作品を見てみると、Any%しかカテゴリがないゲームも複数あるため、ゲームキューブ本体を振らなければならないことがカテゴリの少ない理由ではないようです。
解説動画を見てみよう
このゲームのRTAは、日本1位(世界2位)の記録を持つヤムシン氏が解説動画を投稿しています。
見どころは、本体とコントローラーの操作が同時に求められるステージです。
膝の上に置いたゲームキューブ本体の上にコントローラーを置き、左手で本体を回し、右手でも本体を支えながらコントローラーを操作する様子は、端から見ている限りでは非常に痛快です。
プチゲームは数秒で終わりますが、各ステージのボスゲームは時間がかかるものもあり、約30秒間ゲームキューブ本体を振り続けなければならないゲームも存在します。
プチゲームに対する瞬発力と、ボスゲームに対する持久力。その両方を持ち合わせる必要のあるRTAです。
筋トレにいかがですか
ゲームキューブ本体を振って操作するRTAは、腕の筋肉はもちろんのこと、下半身の筋肉まで鍛えられる健康志向のRTAです。
春といえば、何かを始めるのにちょうどいい季節。これを機に、筋トレがてらRTAを始めてみてはいかがでしょうか。
さて、筋トレと言えば、最近ではリングフィットアドベンチャーが大きな人気を集めています。
RTAでも注目が高まっている今作は、全身運動が求められることから、esportsではなくもはや「ただのスポーツ」とも称されています。
ですが、リングフィットアドベンチャー以外にも全身を使って行うRTAが存在することを、皆さんはご存じでしょうか。
この記事で語るにはスペースが少なすぎるので、また別の機会にご紹介します。
それでは、次回、「リングフィットアドベンチャーだけじゃない! 全身で走るRTA」の記事でお会いしましょう。
パズルボブルRTAをやる人。みんなからはタイトーの回し者と呼ばれておるぞ。
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