『スーパードンキーコング』は1994年にレア社が開発し、任天堂が発売したスーパーファミコン用の横スクロールアクションゲームで、発売から25年経った今なお、国内外で100人以上のRTAプレイヤーから愛され続けている作品です。
本作のRTAには、6つのカテゴリがあります。中でも、全ステージのクリアを目指す『All Stages』、バグ技を利用していきなり最終面にワープしてクリアする『Any%』、ボーナスステージを攻略して最大達成度を目指す『101%』などはその代表です。
2019年は、どのカテゴリでも新しいテクニックが発見されて世界記録が更新されるなど、本作のRTAにとって飛躍の年になりました。その中でも1分という大きなルートの更新が起こったのが、『RBO』と呼ばれる、ボスを逆走してからクリアを目指すカテゴリです。
本記事では、RBOがどのようなカテゴリなのかを紹介した後で、そのルート開拓の歴史と、2019年に起こった革新について順に説明していきます。
ボスを逆順に倒す『RBO』とは?
RBOとは『Reverse Boss Order』の略で、想定ルートとは逆の順番にボスを倒していくというカテゴリです。本作では特に、1面~6面の通常ボス6体を逆順に攻略した後で、最終ボスである『キングクルール』を倒すことを意味します。
大抵のゲームではボスの逆順クリアなど不可能なので、このカテゴリが競技として成立するゲームは非常に限られます。有名な所では、同じスーパーファミコンのタイトルである『スーパーメトロイド』や『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』などが挙げられるでしょう。
しかし、『スーパードンキーコング』は上記タイトルとは異なり、明確な面クリア式のゲームであるため、逆順でのクリアは困難そうに思えます。実際、本作においてRBOが成立したのは2016年と、かなり最近の出来事です。
では一体、何が本作でのボス逆走を可能にしているのでしょうか?
そのカギは、『無の取得』にあります。本作では、無の取得を利用することで、ボーナスステージの出口を別のステージに書き換えることができます。次の動画は、実際に6-2『あばれスピナーのがけ』から1-1『バナナジャングル』へとワープする様子です。
このようなステージ間ワープを何度も何度も繰り返すことで、想定ルートとは逆順でのクリアを実現することができます。
ワープ自体の難易度の高さから、本作のRBOは完走するだけでも難しく、本稿執筆時点での『speedrun.com』上の競技人口は、同シリーズでは最少の8人です。また、3面へのワープが特定のバージョンに限られているため、日本版ではそもそも走ることができないカテゴリであることも、このカテゴリのハードルを上げている要因の1つです。
その他にも、本カテゴリではワープの下準備でライフを消費する関係上、「残機をどこで稼いでどう管理するか」が問われるという面白い側面があります。このような点から本作のRBOは、他にない魅力と高難易度を兼ね備えた、異色のカテゴリと言えるでしょう。
『RBO』ルート開拓の歴史
本作のRBOがカテゴリとして成立したのは、2016年5月のことです。当時、1面を経由して2~6面にワープする方法は、TAS製作者であるTompa氏らの解析によって既に知られていました。しかし肝心の、6面クリア後に5面以前に戻る方法が無かったのです。
「もしも6面から1面へのワープが発見されれば、ボス逆走が可能になる」という状況で、実際にそれを達成したのが、アメリカ人走者のMrZeratheMant氏です。その方法とは、先に紹介した動画のように、6-2『あばれスピナーのがけ』で無を投じ、ボーナスの出口を書き換えるというものでした。この発見以降、RBOのルートは急速に開拓され、ステージ間ワープに関する多くの研究が進められるとともに、トップ走者達によって世界記録が次々に更新されていくこととなりました。
一連のルート研究は、2017年12月にPichi氏が史上初の30分台である30:38という記録を出した頃に一応の収束を見ました。当時最先端だったルートは、海外で行われるRTAの祭典『AGDQ 2018』にて、V0oid氏によって披露されています。
しかしその後はルートや世界記録の更新が途絶え、2019年に筆者を含む日本人走者が新規参入するまで、長い停滞の時期を迎えます。
2019年に起きた革新『ランビ複製ルート』の発見
2年弱の期間に渡って停滞していたRBOの世界記録は、2019年9月に筆者によって30:35に、炎龍氏によって30:22まで更新されました。これらの記録は、ステージ内の動作の最適化による10秒程度のルート更新を含んでおり、後の新たなルート考案へと繋がりました。
そして12月、RBOのルートに大きな革新が起こります。次の動画は、筆者が再構築したルートをまとめたもので、ステージの攻略順や無の投げ方の見直しによる35秒の新たな短縮が含まれています。
DKC Reverse Boss Optimizations in 2019
この新ルートをもとに更なる短縮案を閃いたのが、アメリカ人走者のsnakpak氏です。彼の更新案を合わせて、2019年に発見された短縮は合計1分にも及ぶものとなりました。
ここからはsnakpak氏の更新案の1つである、従来のワープと異なる原理を使った新ルートを詳しく紹介します。次の動画は、6-2から1-1への新ワープ案に対して、筆者と炎龍氏が改良を加えたものです。
一見すると理解不能ですが、順を追ってこの現象をじっくり眺めてみましょう(上の動画は、事前にとある仕込みを行って2体同時操作可能な状態を作ってからスタートしています)。
まずは、2体で同時にアニマルフレンドの『ランビ』に乗ることで、ランビを複製します。このうち赤い方が、後に『無』となります。
次に、わざとスピナーに被弾します。すると、以下のように灰色のディディーが画面左に高速で飛んでいきます。
やがて灰色のディディーがいなくなると、赤いランビの実体は、「ディディーが無に乗っている状態」となります。そのまま所定の位置に移動し、アニマルを降りる動作を行うと……
ボーナスの壁がディディーの位置に突如出現し、その出口が1-1に書き換わります。以上が『ランビ複製ルート』の全貌です。
このルートが従来のワープと根本的に違うのは、「アニマルフレンドをタネにして無を生成している」点です。その結果、バレルをタネにして無を生成する旧ルートと比べて、セットアップに要する時間を抑えることに成功しています。
アニマルを複製して無を生成するテクニックが実用化されたのは、10年以上の歴史を持つ本作のRTA史上でも初めてです。そのため未だに解明されていないことも多く、この方法では現状、バレルから無を生成する場合と違って、1-1以外のステージにワープすることができません。
もちろん、今後研究が進むことで、このバグ技の応用範囲が広がる可能性もあれば、全く新しいテクニックが開発されて劇的な短縮が見つかる可能性もあります。2020年以降も、本作のRTAの更なる発展に是非ご注目ください。
『RTA in Japan 2019』にてRBOのレースが行われます
本記事で紹介した『スーパードンキーコング Reverse Boss Order』のRTAは、『RTA in Japan 2019』にて、以下の通りレース形式で披露される予定です。
日時:2019年12月31日 18:44~19:24
場所:秋葉原ハンドレッドスクエア倶楽部
解説:がーすー
炎龍氏と筆者は、今年の9月以降だけで同カテゴリの世界記録を10回以上更新し合っており、執筆時点での自己ベストはともに29:18(世界1位タイ)となっています。
本作のRTAの魅力を十二分に伝えられるよう準備を重ねてきたつもりですので、現地や生配信、アーカイブにてレース本番の模様をチェックいただければ幸いです(2020年1月2日追記:以下が本番のアーカイブです)。
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