【世界記録紹介】東方文花帖 All Scenes 祝・前人未踏の50分切り達成!

シューティングゲーム

この記事はRTAGamers Advent Calendar 2021の16日目の記事です。

はじめに

2008年から13年間、筆者は『東方文花帖 〜 Shoot the Bullet.』の「All Scenes」RTAに関わってきた。『RTA in Japan Online』などいくつかのイベントで走ったり、『SGDQ 2020 Online』でAGDQ/SGDQ初の東方原作作品として走ってみたり、ここRTAGamers紹介記事を書いたりもした。そのため東方文花帖のRTAといえば筆者というイメージを持つ方が多いかもしれない。

しかし、今回紹介する世界記録の達成者は筆者ではない。筆者の旧世界記録52:01を打ち破り、あまつさえ2021年12月4日に49:25を出して50分切りという金字塔を打ち立てたのは、Ia(あいえー)という名の人物である。

走者のIa氏について

Ia氏は東方文花帖スコアボードに多数の記録を登録している文花帖スコアラーの一人である。氏は2021年12月現在、東方文花帖スコアボードにおいて全85シーンのうち過半数の46シーンで1位の座に就いている。文花帖スコアタ全一といっても過言ではないであろう人物だ。

筆者がIa氏と初めて接触したのは2020年6月21日、筆者の「金閣寺の一枚天井」のスコアアタック配信にIa氏がコメントしたときだった。早速RTAをお勧めしたところ、氏はほんの1月足らずで1時間切り(57:07)を達成してくれた。文花帖のRTAの習得は文花帖をコンプする程度の能力を要するのに加えてパターンを全85シーン分覚えるのが困難なのだが、スコアタで全シーンを元々やり込んでいたIa氏にとってはさほど苦でもなかったようだ。

そして今年9月、レース限定のRTAイベント『RTA Racing Rivals』にIa氏とSOC氏(この人もやばい)をお誘いして東方文花帖 All Scenesで応募した。Ia氏は応募後オフで研究し続けていたらしく、氏の久々の配信では目新しいパターンを多数使いながら2走していずれも54分台、それを見ていた筆者は氏の凄さを再認識させられたものだった。

まあ残念ながらイベントには落選したのだが、その後もIa氏は50分切りを目指して走り続け、50分切りペースの走りを最後のEX-8で6度跳ね返されながらも、2021年12月4日の23時、とうとう50分切りを達成されたのだ。

ところでIa氏が所持している文花帖の全一スコアのうち、その凄さがよく分かるであろう9-6とEX-8のプレイをご覧頂きたい。激しい弾幕の中を掻い潜りながらカメラを自在に操るさまが伝わるだろうか。

Ia 東方文花帖 9-6 915,130 pts

(9-6 新難題「金閣寺の一枚天井」)

Ia 東方文花帖 EX-8 2,340,480 pts

(EX-8 「百万鬼夜行」)

この金閣寺スコアタ全一と初めて接触したとき、そしてその人がRTAに挑戦してくれると知ったときの筆者の心の高揚が想像できるだろうか? 「自分がやるとこれが限界に近いけど、あの人が参戦してくれたらすごい記録を出してくれるだろうなぁ」……走者人口の少ない作品に長年携わっている走者には、そんなことを考えたことのある方も多いのではないだろうか。東方文花帖でまさにそれを実現してくれたのがIa氏なのだ。

……そろそろ勘付いてきた読者もいるかもしれないが、そう、この記事はただの一Iaファンによる宣伝記事だったのだ!!

Ia氏の採用したパターン

古い筆者のパターンとIa氏のパターンのタイムを比較した表がこれだ。Sum of Bestが約48分15秒→約46分46秒と、約90秒も短縮されている。シーン数は全部で85なので、平均すると1シーンあたり1秒ちょい速いという計算になる。

Ia氏が採用しているパターンの中に彼オリジナルのものは実は多くなく、52:30の記録を持つAMO氏のパターンや、ARF氏によってSDAに投稿されたシーン別TA動画のパターンが多い。その殆どは筆者のものよりもタイムが速い代償に被弾リスクも高いのだが、RTA中のIa氏の被弾数はむしろ筆者よりも少ない。スコアアタックで磨き上げられた氏のプレイングの精度は本当に恐ろしいものだ。

以下、筆者のパターンとの比較という形でIa氏のパターンを紹介する。

1-5 蝶符「バタフライストーム」 – リグル・ナイトバグ

東方文花帖RTA 1-5比較

昨年書いた紹介記事では右下から撮ることの安全性を筆者がドヤ顔で説いていた1-5だが、Ia氏は逆に全て真正面から撮っている。なぜか? その理由は撮影後のチャージ(フィルム装填率)回復量稼ぎだ。文花帖は撮影後にある程度チャージが回復するが、その回復量は撮影で消した弾幕の量が多いほど多い。

筆者の1枚目撮影後のチャージ回復量は16%。それに対してIa氏は思いっきり上に突っ込むことによって全方位弾を全て写真に収めて23%。……高速巻き状態における最大チャージ回復速度は0.5%/フレーム(60fps)、つまり回復量が1%増せば高速巻き時間が2フレーム短縮される。この1枚目の回復量差によって(23-16)*2=14フレーム=約0.23秒、Iaパターンの2枚目の高速巻き時間が縮むというわけだ。

2枚目以降も同様で、右下から撮る筆者は20%前後しか回復しないのに対し、正面から撮るIa氏は弾幕の厚い中心部を消しているため、27→30→33%と回復量の上限(N枚目撮影時24+3N%)までチャージが回復されている。

簡単なシーンでも、いや簡単なシーンだからこそ、Ia氏は死なない程度のリスクを背負ってタイムを稼いでいるのだ。-2秒。

2-1 チルノ通常攻撃 – チルノ

東方文花帖RTA 2-1比較

筆者は高速巻きの余地があることを承知しながら楽な大回りパターンを使っていたが、Ia氏はそんな手抜きパターンに安住するのをよしとしない。-2秒。

4-5 毒符「ポイズンブレス」 – メディスン・メランコリー

東方文花帖RTA 4-5比較

過去の記事で筆者は高速巻き/非高速巻きの切り替えを短時間で繰り返すと逆にチャージ効率が落ちると書いたシーンだが、Ia氏はなんとボスに超接近することによって高速巻き長時間持続を実現している。RTAでやることか?? -3~5秒。

なお、これに触発された筆者も3枚目のワインダーを左下でなんとか抜けるパターン(右端)を編み出した。-3秒。

6-2 人智剣「天女返し」 – 魂魄妖夢

東方文花帖RTA 6-2比較

なんとIa氏は2枚目撮影後おもむろに前進を始め、3,4枚目を上避けしている。3枚目で33%回復しているのがポイントだろう。-5秒。

ちなみに画面上部の残り時間タイマーでは約2秒差となっているが、これは画面のスロー演出中はタイマーの進みも遅くなっているためだ。

6-8 四生剣「衆生無情の響き」 – 魂魄妖夢

東方文花帖RTA 6-8比較

6-2と6-8はIa氏独自のパターン。いずれもARF氏のシーン別TAより速いタイムをRTAで普通に出してるのはおかしなことやっとると言うしかない。-4秒。

7-7 銀符「パーフェクトメイド」 – 十六夜咲夜

東方文花帖RTA 7-7比較

このシーンには「ボスの咲夜が魔法陣を展開していない時に咲夜をファインダーに収めるとファインダー外に逃げられる」という仕様がある。筆者の古いパターンではそれを避けるため魔法陣展開中に撮影している。しかしIa氏のパターンでは逆にその仕様をわざと発生させている。-4秒。

筆者もこれに触発され、ちょっと遅いがやや安全なパターンを考えたりした(右端)。-3秒。

8-4 蝶符「鳳蝶紋の死槍」 – 西行寺幽々子

東方文花帖RTA 8-4比較

1セット12本のレーザーが途切れるのを待つことなく撮りに行っている。これに関してIa氏はAMO氏のパターンを参考にされたとのことだ。実は筆者も以前採用を検討したことがあるが、安定性に不安を感じたため見送っていた。しかしIa氏はしっかりと安定させている。-6秒。

10-3 死歌「八重霧の渡し」 – 小野塚小町

東方文花帖RTA 10-3比較

高速巻きを5枚目まで行う筆者のパターンに対し、Ia氏は4枚目まででとどめている。そのためこのシーンは例外的にIa氏の方が遅い。曰くこのシーンは苦手とのことだ。+4秒。

しかしタイムが遅い場合、Ia氏は最後の6枚目まで高速巻きを行う攻めパターン(右端)を使用している。なんてこった!-1秒。

10-6 審判「ギルティ・オワ・ノットギルティ」 – 四季映姫・ヤマザナドゥ

東方文花帖RTA 10-6比較

Ia氏独自のパターン。4枚目から動きが変わってくる。-5秒。

EX-7 鬼気「濛々迷霧(もうもうめいむ)」 – 伊吹萃香

東方文花帖RTA EX-7比較

筆者が萃香の実体化2回目で行っていた2回撮りを、Ia氏は1回目で行っている。-3~4秒。

この2回撮り、筆者のタイミング(写真2,3枚目)で行うよりも、Ia氏のタイミング(写真1,2枚目)で行う方が難しい。前者なら1回目撮影後のチャージ回復量が30%なのに対し、後者は27%と3%少ないため高速巻き時間が3*2=6フレーム=0.1秒増えるからだ。更に、後者は2回撮り成功後も次の実体化までチャージの少ない状態スタートで約17秒間回避し続ける必要もある。それでもしっかり決めるIa氏は流石と言うほかない。

ping値Ia
掛かる時間約66秒約63秒
2回撮りタイミング実体化2回目(写真2,3枚目)実体化1回目(写真1,2枚目)
1回目撮影後のチャージ回復量30%27%
萃香の出現時間251フレーム(約4.18秒)
最速2回撮り229フレーム(約3.82秒)235フレーム(約3.92秒)

Ia氏に話をお伺いした

※太字強調は筆者による。

使用しているディスプレイ・入力デバイスを教えてください!
ディスプレイ…I-O DATA LCD-AH241XDB 入力デバイス…キーボード COUGAR VANTAR AX
ディスプレイは特にこだわりはありません。
キーボードは最近買い替えました。好みでキーストロークの浅いものを選んでいます。Xを低速(人差し指)、Zを撮影(中指)に使い、Shiftは使っていません。
文花帖歴を教えてください!
最初にプレイしたのは2008年頃だったので、一応13年ぐらいではありますが、ほとんど触らない期間も計6年ぐらいはあったと思います。 妖々夢や永夜抄などもプレイしたことはありますが、長時間の避けが辛く、気付けば文花帖ばかりしていました
スコアタの経験はRTAにどの程度活きていると感じていますか?
チャージ完了までの時間や、望遠が届く距離が感覚的に分かりやすくはなっているかもしれません。
どうしてそんなに撮影タイミング精度が高いんですか???
キーストロークの浅いキーボードを使用し、反応速度も設定で早くしているからだと思います。文花帖においてもやはり遅延は敵だと思います。
筆者のパターンからタイムを合計約90秒短縮なさいましたが、どのようにしてパターンを改良されましたか?
今回は、かつて個々のシーンのタイムを詰められていた、外国の文花帖プレイヤーであるARF氏の動画から、多くのシーンのパターンを流用させて頂きました。また、氏のプレイから撮影後のチャージ回復量を意識することを学び、僅かながら、6‐2のようなオリジナルのパターンを作ることが出来ました。
好きなRTAパターンはどのシーンですか?(複数可)
厳しい弾避けが苦手なので、5-7、8‐2、9-8など避けなくていいシーン。
ずばりIaさん的難関はどのシーンですか?(複数可)
8‐7がやばい。
Iaさんは8-6を左端で避けておられますが、装填率が隠れて撮影タイミングが測りにくくはないですか?
私は基本的に画面右側で避けるのが苦手です。文花帖を初めてからしばらくは、キーボードの同時押し制限により、左斜め上下方向の撮影が出来ない状態のままプレイしていたので、癖がついてしまったのかもしれません。克服する気も無く今に至ります。
Iaさんの8-1や10-3攻めパターンは見ていてやべえなあと感じるのですが、難易度が高すぎて不採用になったパターンは他にありますか?
多数ありますが、伝わりやすい所で言えば、9‐1至近距離避けパターン、9-6常時高速巻きパターンなどの厳しい避けが必要なもの。
今後のご予定は?
Vパッチ無しで49分25秒Vパッチ有りで49分24秒が今のベストタイムですが、Vパッチ無しのプレイ時間に比べて、Vパッチ有りでのプレイ時間はまだ短いので、Vパッチ有りでもう少し続けてみたいと思います。妥協箇所も減らし、あわよくば48分台が出せたらと思っています(筆者注: Vパッチ(VsyncPatch)とは、東方原作作品の動作安定化等の機能を持つ非公式パッチ。speedrun.comにはこれを使用したプレイも投稿可能だが、東方Projectスコアボードでは禁じられている)。

おわりに

というわけで、なんとIa氏は49分台に飽き足らず48分台を目標にRTAを続行するとのことだ。興味を持たれた方は、Ia氏のTwitchチャンネルをフォローしてぜひ配信をチェックしていただきたい。なおspeedrun.comへの申請はひとまず保留するとのことで、リーダーボードにはまだ記録が載っていない。

話は変わるが、早いもので開催まであと10日まで迫った日本最大のRTAイベント『RTA in Japan Winter 2021』について簡単に宣伝しておきたい。初日12/26の20:30頃、文花帖と同じ東方原作である『 東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.』の「Phantasm」が披露される予定だ。speedrun.com上において秒単位で最速を競い合う雪だんご氏とジマール氏による並走である。また二日目12/27の2:50頃という深夜帯からは『ドラゴンクエスト5(PS2版)』の「Any% No Major Glitches No Casino Manip (カジノ技非使用)」が予定されている。これまた並走で、がくしん氏とOKB氏によるビアンカ/フローラチャート対決とのことだ。これに関しては、筆者が別イベント用に書いた紹介記事で見どころをだいたい把握できるのではないかと思う。

最後に、RTAGamers運営陣へ。今年は記事を2本しか書けなくてすいませんでした!

参考リンク


※注釈のない画像と動画は全てIa氏と筆者のリプレイから引用させていただいた(入力可視化にはthinputを使用)。全面的に記事に協力してくださったIa氏にお礼申し上げます。国士無双!

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