【SGDQ 2020 Online向け】走者自身の紹介する東方文花帖RTA

RTAイベント

2020/09/18追記: 筆者の準備や当日の反省やbidについてなどをSGDQ 2020 Onlineとかレポートで書いた。SGDQ2020Online日本勢振り返り配信と併せて見てみると面白いかも知れない。

はじめに

8月17(月)~23日(日)に開催される世界最大級のRTAイベント『SGDQ 2020 Online』では、8/22(土)の夜に『東方文花帖 〜 Shoot the Bullet.』『ケツイ〜絆地獄たち〜』『怒首領蜂最大往生』と弾幕STGが連続している。筆者はこの弾幕STGゾーン(shmups block)の先鋒として『東方文花帖 〜 Shoot the Bullet.』の「All Scenes」カテゴリを走らせていただく。本家解説は『ダブルスポイラー』の「Unlock Hatate」カテゴリ最速記録などを保持するbjw氏、日本語ミラー配信『Japanese Restream』での解説はおなじみアジーン氏だ。

東方文花帖 〜 Shoot the Bullet.』(以下東方文花帖)は、同人サークル『上海アリス幻樂団』が制作し2005年12年に頒布した弾幕STGであり、美しい弾幕とBGMに定評のある『東方Project』シリーズの第9.5弾にあたる。『東方文花帖』には主人公格である博麗霊夢と霧雨魔理沙の姿こそないものの、第6弾『東方紅魔郷』から第9弾『東方花映塚』までのキャラがほぼ全て登場する。

2011年から現在まで続く『AGDQ/SGDQ』では『東方Project』の二次創作ゲームは何度か披露されたことがあるが、実は東方の原作それ自体が披露されるのはなんと今回が初めてだ(ihavenoname氏の『ダブルスポイラー』の「any%(=Unlock Hatate)」が『AGDQ 2014』で採用されたことはあるが走者の都合で実行されなかった)。筆者自身、原作の採用を待ち続けていた東方STGプレイヤーの一人でもあるが、嬉しさと同時になんとも言えぬ重圧も感じている。

(画像はGDQ VODsより)

『東方文花帖』のRTAについて

『東方文花帖』には一般的なSTGと大きく異なる点がふたつある。ひとつはタイムに差が生まれない強制スクロール面的な「道中」が全く存在せず、「ボス戦」にあたる部分しかないこと。このためSTGの中ではRTA向きとよく言われる。もうひとつは、自機である射命丸文がショットを全く撃たず、代わりにカメラ片手に弾幕を撮影(Shoot the Bullet)するゲームであることだ。

未実装である「号外」を除き、『東方文花帖』には全部で85ものシーン(ステージ)が存在する。そのそれぞれに3~10枚の撮影ノルマが設定されており、その枚数だけ被写体(ボス)を撮影すればシーンクリアとなる。「All Scenes」カテゴリでは、全85シーンをクリアするまでのタイムを測る。

筆者は(ちゃんとバックアップを取って)セーブデータを削除してから走る

「All Scenes」カテゴリRTAの歴史は古く、その具体的な長さは不明だが、筆者が初めてこれに手を出した12年前の2008年の夏には既にいくつも記録が存在していた。日本人走者は意外と多く、1時間切りを達成しているのは筆者を含め少なくとも4人はいる。なぜかspeedrun.comのleaderboardに記録を登録している日本人は筆者だけ、しかも登録人数は全部で2人と非常に寂しいことになっているが……(登録してくれー)。現在の最速記録は恐らく筆者が2017年8月に達成した52:01である。

撮影システムについて

写真の撮影はフィルム装填率(チャージ)が上限の100%に達すると可能になる。チャージは何もしなくとも少しずつ回復してゆくが、撮影ボタンと低速ボタンを同時押しすると「高速巻き」状態になりチャージ速度が最大で通常の約2.67倍まで上昇するまた、この高速巻き中の移動速度は低速移動よりも遅い超低速移動となる。高速巻きは当然RTAにおいても重要で、極端な話どのシーンも「高速巻き状態を維持→チャージ100%になったら即撮影」の高速巻き即撮りを繰り返すのがタイム的には理想と言える。実際、弾幕の薄い序盤ではそれに近いパターンが多い。

撮影可能な状態で撮影ボタンを長押しするとファインダーモードに切り替わる。このファインダーモードではファインダーカーソル(チャージ率付近の十字マーク)だけを動かして遠くを撮ることができ、このテクニックを「望遠」と呼ぶ。また予めファインダーカーソルをボスに近付けておいてから望遠を行うことでより遠くを撮る「超望遠」もある。ただしファインダーモードが長引くとフォーカスフレーム(撮影有効範囲)がどんどん小さくなるし、仕舞いには感光(撮影失敗)してしまう。望遠・超望遠は、主に弾幕が厚くてボスに接近できないシーンで多用する。

チャージ完了直後のファインダーカーソルの位置

低速移動でボスから離れると、
ファインダーカーソルはよりボスに近付く
(超望遠の仕込み)

このゲームに緊急回避ボムはないが、撮影可能な状態であれば撮影それ自体を緊急回避手段として用いることができる。撮った写真の中の弾やレーザーは全て消えるからだ。ボスを含まない撮影は特に「空撮り」と呼ぶ。空撮りは撮影ノルマの足しにはならないが、緊急回避手段以外にパターンの一部として行うこともある。また、ボスを撮っても撮らなくても、消した弾やレーザーは光として自機に吸収されチャージが回復する

超望遠をフル活用すれば、この高さからでもカメラがボスに届く

弾幕の紹介

テクニックの紹介がてら、1~EXの全11レベルから1シーンずつ抜粋して紹介してゆく。

筆者の文花帖RTAリプレイ置き場には、ここにないシーンを含む全てのリプレイがある(宣伝)。

1-5 蝶符「バタフライストーム」 – リグル・ナイトバグ

撮影ノルマは5枚。まあ高速巻き即撮りを繰り返すだけなのだが、筆者は撮影範囲の隅にボスが引っ掛かるような位置から撮る。この位置ならば、ボスとの距離を大きく取りつつもファインダーカーソルを小さく動かすだけでボスを撮ることができる。撮影範囲の対角の長さを利用しているのだ。

東方文花帖RTA 1-5

対角を使った場合とそれ以外の例は以下の通り。この撮影範囲の対角や横幅の長さを活かしてボスとの距離を確保しながら斜め下や真横から撮ることは、『東方文花帖』RTAのパターン化に使う基本テクニックのひとつだ。

○対角の長さを利用

×正面では弾幕から距離を取れず危険

×正面から対角の長さ分の距離をとると、ファインダーカーソルをだいぶ動かす必要あり

左端ではなく右端から撮っているのにも一応ちゃんと理由がある。壁に接する場合、左端だと高速巻き中のチャージ率が隠れるため撮影可能になるタイミングが予測しにくいのに対し、右端ならばチャージ率がしっかり見えるのだ。

画面左端
×チャージ率が隠れる

画面右端
○チャージ率がしっかり見える

2-4 寒符「コールドスナップ」 – レティ・ホワイトロック

『東方文花帖』の多くのシーンでは、ボスは移動先に充分なスペースがある限り一定の周期で必ず自機のいるx軸方向へ移動する。自機がボスの右側にいればボスを右へ、左側にいればボスを左へ誘導できるというわけだ。このボス誘導もパターン化に使う基本テクニックである。

2-4は序盤のLv2にしては弾幕が厚くやや危険であり、これを安全に突破するため、ボス誘導と1-5でも言及した撮影範囲の対角を利用したパターンを使っている。

東方文花帖RTA 2-4

ちなみに続編的ポジションの『ダブルスポイラー』ではボスを誘導できる確率が2/3となっており、ボス誘導を前提としたパターンは使いにくくなっている。

3-6 葵符「水戸の光圀」 – 上白沢慧音

撮影ノルマは7枚。左右からの全方位回転レーザーとボスの発射する自機狙い全方位弾で構成される弾幕。Lv3にしてはまともに避けると難しいが、実はレーザー発生源は当たり判定が存在しない安全地帯となっている。反対側からのレーザーとボスの弾を安全地帯の中で避けつつ高速巻き即撮りを繰り返せば、簡単に最速で突破できる。撮れ高のよいパターンでもある(写真だけに)。

東方文花帖RTA 3-6

4-5 毒符「ポイズンブレス」 – メディスン・メランコリー

『東方花映塚』のExアタックでおなじみメディスンの毒霧に自機が重なると、移動速度が4割に低下する。

撮影ノルマは5枚。1,2枚目はタイム短縮のため無理やり正面で撮り、以降は毒霧による移動速度変化に注意を払いつつ大きく回転して避ける。ただし回転中にチャージ速度を上げようとして高速巻きを挟むのはよろしくない。高速巻き/非高速巻き切り替え直後はチャージ速度が低下するため、切り替えを短時間で繰り返すと逆にチャージ効率が落ちるのだ。そのためこのシーンでは高速巻きを使わずに回っている。

東方文花帖RTA 4-5

5-1 美鈴通常攻撃 – 紅美鈴

撮影ノルマは5枚。ここで用いるパターンはお気に入りのひとつ。美鈴のキックと同時に発射される弾幕を画面外へ誘導することにより、ほぼ弾避けをせずに終わらせる。

東方文花帖RTA 5-1

昔は上下に誘導するパターンを使っていたが、これは弾の機嫌次第で詰むため8~9割程度の成功率だった。しかし数少ない『東方文花帖』RTA1時間切り走者の一人であるAMO氏の左右誘導パターンを取り入れた結果、弾の機嫌に影響されない現在のパターンが完成した。

6-3 星符「飛び重ね鱗」 – 橙

撮影ノルマは5枚。1ループにつき1枚撮るとちょうどいい感じの弾幕だが、筆者のパターンでは高速巻き即撮りを繰り返すことで無理やり3ループと少しで終わらせる。橙を素早く撮るため前に居続けることになるが、前にいると鱗弾の誘導が難しい&怖い。

東方文花帖RTA 6-3

7-5 空虚「インフレーションスクウェア」 – 十六夜咲夜

撮影ノルマは6枚。Lv7で最も難しい弾幕。咲夜の能力でもある時間停止中に、ばらまきナイフ弾と自機を囲む自機狙いクナイ弾が設置される。「時間停止前は高速巻きを維持し続け、時間停止解除後にボスと自機狙いクナイ弾を同時に撮って安全に抜ける」というパターンを使うが、ばらまきナイフ弾は高速巻き状態の超低速移動で避ける必要がある。

東方文花帖RTA 7-5

このばらまきナイフ弾はボスを撮影するたびに速度が上昇する。そのため5,6枚目は見切りが困難で被弾率が高いし、ナイフ弾を避けるために一瞬でも高速巻きを解除するとチャージが遅れて自機狙いクナイ弾に圧殺されがちだ。ただし画面端近くに居れば画面外の自機狙いクナイ弾が欠ける仕様を利用して命を繋ぐこともできなくはない。

8-7 超人「飛翔役小角(ひしょうえんのおづの)」 – 八雲藍

撮影ノルマは8枚。藍が最上段のランダムな位置から自機への突撃を繰り返しながら弾をばらまく弾幕。藍は撮影するたびに速度が上昇し、最後の8枚目では超高速の連続突撃が行われる。

東方文花帖RTA 8-7

「最下段で高速巻き状態で横に移動し続けることによって自機狙い藍を避けつつチャージを溜め、撮影したら逆方向へ切り返す」というパターンを使うが、終盤特に藍が最高速に至る8枚目では、大きな角度で突っ込まれると藍に轢き殺されてしまう。そのため藍と自機の位置関係を見て高速巻きを維持するか解除するかの瞬間的判断が要求される。反射神経が人並みな筆者にとっては、おててぷるぷる状態の自己ベペース終盤で挑む弾幕を除けばこれが最も苦手だ。

東方文花帖RTA 8-7 NG 1

(失敗例1: 高速巻き解除の判断を誤り激突死)

東方文花帖RTA 8-7 NG 2

(失敗例2: 激突を恐れてチキった結果高速巻きが足りず、端に着いてもチャージが完了しない)

7枚目までは死ぬ要素が少ないのに最終段階の8枚目だけ難易度が跳ね上がる。そのためループに陥った場合のタイムロスが大きいのもいやらしい。そのクソゲーっぷりからついつい汚い言葉が口をつきかねない、そんな意味でも危険な弾幕と言える。

9-6 新難題「金閣寺の一枚天井」 – 蓬莱山輝夜

撮影ノルマは7枚。『東方文花帖』で最も有名な弾幕にしてLv9の最難関。作者である神主ことZUN氏のバランス調整ミスとも噂されている高難易度の気合い避け弾幕で、筆者も初取得には800枚以上掛かった。とはいえ、高速巻き・望遠・空撮りといった『東方文花帖』特有のシステムを十全に駆使できれば言うほど苦戦することはないはず。2018年末に筆者の走った金閣寺108回取得RTAでの取得成功率が108/197と5割強あるのがその証左だ。

東方文花帖RTA 9-6

とか言いつつ、これまで筆者は『東方文花帖』を『JRTA3』『RTA in Japan Online』『名古屋RTAオフ』というみっつのRTAイベントで走らせてもらいながら、そのいずれでも金閣寺を一発では打開できていない。それゆえ『SGDQ 2020 Online』では今度こそ……という思いがある。

10-3 死歌「八重霧の渡し」 – 小野塚小町

撮影ノルマは6枚。最初からぐるぐる回って避け続けていればLv10の中でも難易度の低い弾幕。しかしタイムを縮めようとして弾の隙間に無理やり入り込む高速巻きパターンを取り入れてみたところ、やたら撮影タイミングがシビアなパターンになってしまった。ループに陥らないか不安なシーンのひとつ。

東方文花帖RTA 10-3

EX-7 鬼気「濛々迷霧(もうもうめいむ)」 – 伊吹萃香

撮影ノルマは3枚。萃香は開幕からしばらく撮影不可能状態が続き、実体化し撮れるようになるまで約34秒、2回目以降は約18秒も待たねばならない。実体化の持続時間は短いため、普通は実体化1回につき1枚だけ撮る。そのせいで3枚という少ないノルマの割に時間を喰うシーンだ。

東方文花帖RTA EX-7

しかしタイミングはややシビアだが実体化中に2枚撮る「2回撮り」を行うことができ、これは成功すると約18秒の短縮になる。実体化した萃香の発射する全方位大玉次第では高速巻きを維持できず失敗することもあるが、最終盤の大技ゆえなるべく決めたいところ。

おわりに

完全に余談だが、実は筆者は『SGDQ 2020 Online』に『四字熟語Flash』でも応募(記念受験)しており、そちらは落選している。筆者はかつて2017年夏の『RTA in Japan Online』に『四字熟語Flash』(本命)と『東方文花帖』と『ダブルスポイラー』で同時に応募したところ『四字熟語Flash』が落選して『東方文花帖』だけ採用された経験もあり、不思議なシンクロニシティを勝手に感じ取っている。

『SGDQ 2020 Online』の『東方文花帖』の予定時間は当初1:00:00だったが、現在のスケジュール(『Japanese Restream』の方はこちら)では1分増えて1:01:00となっている。これは応募していた+1分のDonation Incentiveが受理されたためだ。大それたことをやるわけではないが、興味のある方はごま塩程度に覚えておいてくれ……るとありがたい。


※注釈のない画像は『東方文花帖 〜 Shoot the Bullet.』より引用。

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