「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」とは
2004年11月27日にスクウェア・エニックスより発売されたPlayStation 2用ロールプレイングゲーム(RPG)であり、ドラゴンクエストシリーズのナンバリングタイトルとしては初の後方視点の3Dグラフィック作品である。
キャラクターは従来の2頭身のドット絵から、アニメ風のリアルな描画に変化したことで移動や戦闘もアニメーションによって描写されるようになったのが特徴。
新たなシステムとして、キャラクターが固有にもつスキルにポイントを振り分けることでプレイヤー独自の育成が可能になっているほか、戦闘中に攻撃の威力を高めるテンションや、移動中にアイテムを合成できる錬金釜もドラゴンクエスト8(以下DQ8)が初登場である。
また、フィールドにシンボルで存在するモンスターを倒すことで、モンスターをスカウトすることができる。自分のお気に入りのパーティーでチームを組んで、格闘場を勝ち抜いたり戦闘に呼び出して一緒に戦うことも可能になっている。
ドラゴンクエスト8RTAとは
ドラゴンクエストシリーズの中では、長時間作品に分類されるDQ8RTA。
時間は実に10時間の大台に乗ることもある。
RTAにおいては、スキルポイントの配分をどうするか、ボスが強力なため必須となるレベル上げをどこで行うかがカギとなる。
そんなDQ8RTAの最速記録が前回生み出されたのは、「2015年11月15日」。
実に5年前の出来事である。
なぜ5年間も記録が更新されなかったのか、そして発売の2004年から2015年はどのようにRTAが進化していったのか。それは先人の汗と努力を知らずして語ることはできない。
今回は、発売から現在に至るまでのDQ8RTAの歴史を振り返りながら、その変遷を紐解いていきたいと思う。
ドラゴンクエスト8RTAの歴史
2004年12月(クリアタイム:約14時間半)
DQ8が発売されたのが2004年11月27日。
なんとDQ8RTAの歴史は、今では当たり前の配信サイトやTwitterがない時代まで遡る。
発売からわずか1か月、2004年12月にはなんとRTAが実行されているという記録が残っている。
(参照:DQ8 やり込み/特殊攻略データベース様)
初期の初期、動画や配信で情報を共有できないやりこみプレイヤーがどうやって情報を共有していたのか。そう、レポートと掲示板(2ch)である。
HPを作るのも難しかったこの時代、文字情報で自分のプレイを発信して、戦術の美しさと成し遂げた記録を後世に残すのがこのころの常であった。
2004年当初のタイムアタック情報で残っている貴重な文献→
・タイムアタック用のチャート(ドラクエ8 極限攻略データベース様)
・【人生一度の】DQ8タイムトライアル【ガチ勝負】(5ch過去ログ)
このころの特徴としては、レベリングを「王家の山」という現在と比べると後半に位置するところまで待っていたり、小さなメダルを回収して強ボスレティス前にオリハルコンを交換し強力な回復アイテム賢者の石を錬金していたりする。
まさに開拓期で現在とは攻略法が異なるが、このクオリティの戦略が発売1か月で練り上げられていることに驚きが隠せない。
この頃にあったイベント:極限攻略研究会様 ドラクエ8 RealTimeAttack 中継
2005年(クリアタイム:11時間切り)
翌年(とはいっても発売から2か月)には本格的にタイムアタック総合スレが立ち、戦略の考察が加速していく。
→DQ8タイムアタック総合スレ ルート.02【千客万来】(5ch過去ログ)
考察の中では、主人公のスキルを剣にふる剣チャートが考案されたり、また槍チャートに戻って考察が深まったりとスレの中で戦略が洗練されていく様子を追うことができる。
RTAも実際に実施された記録が残っており(Final Fantasy & Dragon Quest 神業映像様より)、タイムの更新合戦の末最終クリアタイムは11時間を切るまでに達した!
このころの戦略で特筆すべき進化は、レベリングの洗練であろう。前半から積極的にレベルを上げることで、ボス戦の加速はもちろん、トヘロスという弱い敵と出会わなくなる技が存分に力を発揮し、道中のタイム加速につながった。
旧:王家の山周辺でメタルスライム狩り(後半ダンジョン周辺で1回)
新:旧修道院跡地+願いの丘に続く川沿いの道でメタルスライム狩り(前半ダンジョンで2分割)+トロデーン城ではぐれメタル狩り(中盤ダンジョン)
そのほかにも、小さなメダルの回収がなくなったり、錬金も順番に違いはあるものの現在のものに近い形へ変わっていったのもこの時期である。
また、この頃蓄積された調査データは、今のDQ8RTAプレイヤーが使用するものも残っている。
例として右弐氏の逃亡レベル調査があげられるだろう。(調査ログはこちら)2005年の調査結果が2020年現在も使用されているのは感慨深いものである。
その他、注目すべき点としては裏ダンジョンRTAだろうか。
ここではゼシカの格闘スキルで入手可能な「マダンテ」という呪文を使って、裏ボスを倒す戦略が使用されているという記録が残っている。(DQ8タイムアタック総合スレ 3)
このマダンテは、後ほど裏ダンジョンだけではなく、通常のRTAでも使用されていくことになり、このころの戦略が走りになったともいえるだろう。
この頃にあったイベント:東京大学ゲーム研究会様 2005駒場祭DQ8RTA
2006年(クリアタイム:11時間切り)
この頃に入ると、DQ8RTAの更新記録の報告がない空白期間に入る。
そして次に記録更新が表舞台にあがってくるのは、実に2010年ごろまで待つことになる。
しかしながら、特筆すべき事項としてDQ8RTAがファミ通誌で取り上げられたという記録が残っている。RTAが徐々に知名度を広めていったのもこの頃なのであろう。
2006年1月にファミ通誌上で上記2004年の「ドラゴンクエスト8」のRTAがやりこみ大賞を受賞した
~RTAの歴史より引用~
2010年(クリアタイム:11時間切り)
時は経って2010年、動画配信サービスではYoutubeやニコニコ動画、ストリーミングサービスではpeercastをはじめニコニコ生放送のユーザーが増えた時期である。
この頃になるとやりこみ動画やタイムアタック動画が見られるようになり、より配信に適合性が高いRTAは大会も開催されるようになった。
DQ8の新たなRTAプレイヤーもあらわれはじめ、ついに冬葵氏によって記録の更新が報告される。
(レポートはこちら)
そしてここからDQ8RTAは、いよいよ戦国時代に突入する。
この頃にあったイベント:第1回PS&PS2ドラクエRTAリレー対決
2011年(クリアタイム:10時間ちょっと)
2011年に突入し、ここから戦略に大幅なメスが入れられていくことになる。
まずは、主人公の最終武器が槍(デーモンスピア)から剣(吹雪の剣)に変更された。
それまで頑張ってあげた槍スキルの武器を最後まで使うよりも、強力な武器とちょっと上げればとれる剣スキルを使ったほうがタイムに貢献できるという研究結果である。
さらに前半の狩り場所が旧修道院跡地に1本化された。ゲームのロード時間やメタルスライム出現数から効率を求めた結果、そちらのほうがよいという結論がなされたのである。(もろもろの経緯はこちらから)
その他、スキル振りの最適化、過剰に回収されていたアイテムや購入物のカット、錬金が最適化されていき記録はついに冬葵氏の手により約10時間まで短縮された。(レポートはこちら)
また、後半の火力をマダンテに主軸をおいたマダンテチャートが広まりだしたのもこの頃と思われる。マダンテ取得のためには膨大な経験値が必要なため、さらに終盤のダンジョンである竜骨の迷宮でメタルキングを狩る必要がある。重なる運ゲーの先にあるボスをなぎ倒す爽快感は、一部の走者とリスナーを魅了した。
【画像1】マダンテチャートはDQにも関わらず、5000を超えるダメージをRTA中にたたき出す
2012年(クリアタイム:10時間ちょっと)
冬葵氏によって打ち出された記録が不動のものになりかけた2012年は、よりプレイヤーが増え交流の場が求められた。そこで発足したのが、DQ8RTA並走部である。
部長桜の息吹氏により設立されたニコニコ生放送のコミュニティは、定期的に並走(レース)やイベントが開催され、DQ8RTAをより盛り上げてくれている。
2013年(クリアタイム:10時間切り)
戦国時代に革命起こる。
そう斜め走法の登場である。
斜め走法とは、カメラ視点をわざとずらして斜めに走ることで移動速度を上げる技である。
元はテイルズシリーズで斜めに走ることで早く移動できるというテクニックがあり、それをテイルズシリーズRTAプレイヤーであるbraster氏がDQ8で試した結果実際に早かったという逸話がある。(斜め走法を発見したbraster氏にちなんでブラ走法と呼ばれることもある)
【画像2】斜め走法は斜めに走ることではやく走ることができる(筆者投稿の検証動画より)
この技の登場により、移動時間全てが短縮要素となり大きくRTAのタイムが伸びることになった。(一方でアクション要素が加わったことで、敬遠する走者が増えた事実はある)
さらに、移動時間が短縮されたことで、これまで使っていた移動手段である「バウムレンの鈴」というアイテムがカットされた。バウムレンの鈴は地上を高速で移動できる乗り物「キラーパンサー」を呼び出すことができるアイテムであるが、回収にかかる時間を短縮しきれなくなったのである。
【画像3】斜め走法の発見により解雇された乗り物キラーパンサー
それに伴い世界巡りや錬金の順番などのチャートも大幅な変更を余儀なくされ、研究が進められていった。
そしてついにRuru氏により、10時間の壁が破られる。しかも初の10時間切りは、これまで一度もチャートとしては1位の記録を取ったことがなかったマダンテチャートでの達成であった。(ラップはこちら)
続くように、従来の槍をメインに据えた槍チャート、主人公のスキルを最初から剣にふる剣チャートでも10時間切りがなされ、チャートの選択にも幅が出るようになってきた。
2013年も暮れを迎え、移動だけでなく戦術面でも変化が訪れる。
これまではマダンテチャートのみで採用されていた竜骨の迷宮でのメタルキング狩りを、マダンテチャートほど経験値を必要としない、槍・剣チャートでも採用する動きが生まれたのである。
それまでは、そもそも竜骨の迷宮は敵が強く、たどり着くまでのイベント・距離が多いこともありマダンテチャート以外では効率が悪いものと考えられていた。
しかし、その後のボスへの安定度・撃破速度・戦略に必要な技やスキルの取得、道中の敵削減効果等々が噛み合う結果、稼ぎを前倒ししたほうが早くなると結論付けられた。
ちなみにこの年は筆者が主催したイベントで、DQ8のリカバリータイムアタックというリアルイベントが実施された。詳細はリンクを確認していただきたいが、リカバリーTAのほかに広い界隈を呼んだRTA実演も行っており、配信だけではなく走者間でリアルの交流が増えだしたのはこの辺であるという起源説を私は主張したい。
この頃にあったイベント:ST大学むつめ祭RTA企画 ReTA大会(DQ8)
2014年(クリアタイム:9時間半)
技術革新により、更新合戦が行われた時期である。
大きなチャートが固まったことで、続いて細かいテクニック(コマンド操作の精度アップ、移動の最適化等々)によりDQ8RTAのタイムは界隈全体で伸びていった。
また、メタル斬りと雷光一閃突きの両方を主人公に入れるために、全体回復呪文のベホマズン取得を遅らせる「後マズンチャート」も登場した。メタル狩り全体の安定には繋がるものの、後半のボス戦の難易度が上がるため玄人向けのチャートである。この時期には後マズンチャートにより、最速記録が更新された。
2014年は氷河期(後述)突入前で最も並走(レース)が活発に行われていた時期でもあり、一発通しならではの錬金を行う等人によってチャートに色が見られだした。
2015年(クリアタイム:9時間18分)
そしてその瞬間が訪れた。
2015年11月ラス氏により9時間18分04秒という、当時異次元の記録が打ち出されたのである。
前記録を実に10分以上の更新である。(レポートはこちら)
この記録が、今回の記事を書くに至った2020年に記録更新されるまで5年間破られることはなかったことからわかるように、記録奪還のハードルを大いに釣り上げた。無理をしてでも低レベルで先に進むなどの、記録狙い特化チャートの研究も進んでいった。
そして、更新の難しさを感じたプレイヤーは記録狙いをやめ、ここからDQ8RTAは氷河期へと突入することになる・・・
ちなみに氷河期の直前~以後はRTAだけでなく、リカバリータイムアタックやおつかいRTAなど、様々な遊び方でDQ8を楽しむイベントも開催されている。
この頃にあったイベント:DQ8リカバリータイムアタック大会 inニコ生
PS2版DQ8「おつかいRTA大会 Part1」
氷河期(2016~19年)(クリアタイム:9時間18分)
氷河期ではあるが、DQ8RTAは水面下で進化を続けていた。
新たなタイム短縮技が二つ発見されたのである。
一つ目の薬草園の洞窟の坂道逆走ショートカット技はそのままの意味である。
二つ目のイエローオーブの先取りは、通常終盤でしか入手できないはずの重要アイテム「イエローオーブ」がある特定時期に入手できてしまうという技である。これにより、イエローオーブ入手のために終盤もう一度来なければいけないはずの移動時間をまるまるカットすることが可能になった。
この2つの技によりタイムが短縮されたのに加えて、2018年ごろからさらなる移動の最適化や、雑魚処理の効率化が行われていった。
2020年(クリアタイム:9時間13分 NEW)
氷河期にも終わりは訪れる。
ニコニコ生放送だけでなくYouTubeでDQ8RTA配信を行うプレイヤーが増えたことで、再びDQ8RTA界隈に活気が戻ってきたのである。
そしてついに2020年6月に、ますにゃん氏により5年ぶりに9:15:25へ記録が更新された。(Twitterはこちら)
新たな試みとしては、剣→槍→剣とスキルを切り替えて進むチャートを使用している点、下記エンカウントロード時間短縮技により、過去に姿を消した願いの丘に続く川沿いの道でのメタルスライム狩りが再度日の目を浴びるようになった点である。
ロード時間短縮についてわかったことを2つ
・くちぶえを吹くとロード時間が固定されるっぽい、つまり歩いてエンカウントした時は固定されていないので後から調整可能
・くちぶえよりも歩いてエンカウントした時の方がロード時間短縮の範囲が広い。川沿いの結構最初の方でも最短が引けた— ますにゃん (@ky_murige) May 24, 2020
そして2020年10月、今年2度目のDQ8RTA記録更新があんぱん氏によって達成された。(Twitterはこちら)そのタイムは9:13:25!!今度は槍チャートでの更新である。
このタイムが出た後もDQ8RTAを続けているプレイヤーはまだまだ健在であり、今後も記録の更新が期待される。
ドラゴンクエスト8RTAが気になってきたあなたへ
昨今新規プレイヤーが増え、10人を超える大型並走が定期的に開催されているDQ8RTA!
そんなDQ8RTAをしゃぶりつくすことができる企画が開催される。
その名も「DQ8駅伝」!
11月21日(土)~23日(月)の3日間にわたり、異なる3種のルールのDQ8RTAを1チーム4名の5チームで対決するイベントだ!
1日目は通常ENDまでを2名でリレーする特殊ルールRTA。
2日目はバグ有で通常ENDクリアを目指すRTA。
3日目は裏ダンジョンを含めて真ENDを目指すRTA。
いずれのルールも普段のRTAとは異なるテイストとなるため、見ごたえあること間違いなし!
終わりに
今回の記事作成にあたり、桜の息吹さんとゆうさーさんにご協力いただきました。
長時間文献の発掘にご協力いただきましてありがとうございました!
※記事に使用している画像は実際のプレイ映像より引用
おもにドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーのRTA情報を発信していきます。
オフラインイベントにもよく顔を出しているので、記事執筆はお気軽に御声掛けください。
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