【マリオ64 RTA】マリオ64界に激震! 1.9秒も短縮できる革命的な壁抜けが2021年になって見つかる!

supermario64-chip-clip-discovered3Dアクションゲーム

発売から25年もの間、多くのプレイヤーに開拓され続けているスーパーマリオ64のRTA。

開拓され過ぎたために、近年はたびたび「さすがにもう革命的な発見は無いだろう」という話が挙がるのだが――。

2021年10月3日。まさかの、、、ChipGroove氏により革命的な壁抜けが見つかったのだ!(発見時に投稿された動画はこちら)

『Chip Clip』と命名されたこの壁抜けは、RTAだけでなくTAS(Tool-Assisted Speedrun)においても使えることから、現在、マリオ64界全体が大いに盛り上がっている。

今回はChip Clipの概要を話した後、発見に至るまでの背景や原理を紹介していく。

今回発見された壁抜け『Chip Clip』とは

今回発見されたChip Clipとは、ウォーターランドの序盤にある急な斜めの壁を抜けてトンネルに入る技だ。詳しくは以下の比較動画の左側を見てほしい。

DDD Chip Clip Comparison

今までは、ステージ入場後、下にあるトンネルへ素直に泳ぐ正攻法を使っていた。(動画右下)

それと比べ、Chip Clipは、最初に壁の上側へ向けて泳ぎ、壁を抜けていきなりトンネルに入る流れとなっている。つまり、下方向へ泳ぐ手間をカットできるのでそれがタイム短縮に繋がるのだ。

具体的なタイム短縮量だが、壁抜けしない場合と比べ、

  • パンチ無しだと1.9秒程度
  • パンチ有りだと0.9秒程度 ← 既に安定法が存在

の短縮となる。

 

長い年月開拓され続けたマリオ64RTAで、1秒前後も短縮できる技が今になって見つかるとは誰も思わなかっただろう。

さらに、今回の盛り上がりに繋がっている要因がもう1つあるのだ。それは、回収するスターの関係で、0枚RTAを除く全てのカテゴリでこの技が使えることである。

例えば、1枚RTAや16枚RTAであれば、1秒…いや1フレームを死に物狂いで追い求める魔境と化しているので、1秒前後の短縮は大きすぎるし、

120枚RTAであれば、3枚のスターでこの技を使う機会があるため、既に安定法が編み出されているパンチ有りの方法で0.9秒 × 3回 = 2.7秒程度も短縮できるのだ。

これを聞けば、マリオ64に詳しくない読者でも、今回の発見が如何に影響力の高いものなのかが分かると思う。

 

以上がChip Clipの概要なのだが、私が気になったのは『この壁抜けが何をきっかけに・どのような流れで見つかったのか』である。

せっかくなので、ChipGroove氏本人に話を聞いてみることにした。

何をきっかけに・どのように見つかった?

アメリカのマリオ64プレイヤーのひとりであるChipGroove氏は、私の質問に対し快く答えてくれた。

 

氏曰く、この壁抜けを発見するきっかけとなったのは『ウォーターランドがRTA的に退屈なステージであること』にある。

マリオ64プレイヤーであれば分かると思うが、RTAにおけるウォーターランドは、最初にトンネルまで泳ぎ、以降は長いトンネル内をひたすら泳ぐだけなので楽しい要素が一切無い。

この退屈な部分を少しでも減らせないかと思った氏は、「過去のプレイヤーが既に試しただろう」と思いつつも、壁を抜けて無理やりトンネルに入れないかを考えてみることにしたそうだ。

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このgif以降もトンネル内を泳ぐだけのパートが続く

 

氏が最初に行なったことはウォーターランドの壁などの地形の確認だ。その確認の最中に「かいぞくのいりえの壁抜けと同じ原理で壁を抜けられるのでは」と閃く。

かいぞくのいりえの壁抜けとは、ステージの一番奥にある壁を抜けてトンネルに入る技のことである。主に120枚RTAで使われる技で、ご存じの方も多いと思う。

 

氏は、この壁抜けができる条件が『トンネルの上の急な壁をそれなりの速度でパンチすること』だと思い、そして、「ウォーターランドで同じ条件を満たせば壁を抜けられるのでは」と考えた。

この考えを元に、ウォーターランドのトンネルの上側にある急な斜めの壁へパンチしてみたところ……、なんと、3回目のチャレンジで壁抜けできてしまったのだそうだ。

その後、その時通話していたメンバーに同じことを試してもらい、そのメンバーも成功したことから、アイデアとして動画をアップすることにしたとのことだった。

以上がChipGroove氏から聞いた発見の背景となる。

 

かいぞくのいりえの壁抜けの原理をウォーターランドに適用させること――。

マリオ64プレイヤーなら誰もが思いつき試しそうなことなので、ChipGroove氏の動画を見て「やっぱり壁抜けできるのか!」と驚いた人もいるのではないだろうか。

私も試したことがあった身なので非常に驚いたし、『既に考えられたことのある内容かもしれないけど、自分でも試してみる』という氏の姿勢の重要さを改めて実感した。

 

さて、上記の背景の中で『壁抜けができる条件』の話が出てきた。

「なぜ壁を抜けたら急にトンネル内にワープするの?」と気になっている読者もいることだろう。次のセクションでそれを紹介しよう。

なぜ壁抜けするとトンネル内にワープする?

今回の壁抜けは2つのシーケンスから成り立つ。以降で1シーケンスごとの原理をざっくりと解説しよう。

(1) 壁を抜ける
(2) トンネル内にワープする

 

(1) 壁を抜ける

壁抜けの前提には、水中におけるマリオの移動の仕様がある。

マリオが水中にいる時、『マリオが現在いる座標』に『マリオの現在の速度』を加算した値が次のフレームの座標となる。水中では一度にこの処理が行われる(地上や空中では4回に分けて処理される)。

例えば、マリオが現在(0, 0, 0)の地点にいて、X方向に”20″の速度で移動していた場合、次のフレームの座標は(20, 0, 0)となる。

※フレームとは、動画を構成する1枚1枚の静止画のこと。マリオ64では1秒を30枚の静止画で表現している。

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以上が水中における移動の仕様であり、これを念頭に置いて、壁がある場合を考えてみる。

例えば、マリオの移動速度が遅く、次のフレームの座標が壁の中だった場合(壁を越えられなかった場合)、壁に衝突する処理が発生し壁の手前側へ押し戻される。

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これが通常の挙動なのだが、もしマリオの移動速度が早く、次のフレームの座標が壁を越えた先だった場合はどうなるのか。

勘の良い読者は既にお気づきだろう――壁に衝突する処理が発生せずに壁を通り抜けるのである。これが、つまり、壁抜けという現象なのである。

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この例を今回発見された壁抜けに当てはめたのが以下の断面図となる。トンネルの上側にある急な斜めの壁を越えることができれば、壁抜け成功となる。

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ただ、今回の壁抜けを可能にした要因はこれだけではなく、壁が薄いことにもあるのだ。

実は、マリオ64では、一言で壁と言っても『壁』『床』『天井』の3種類がある。

トンネルの上側の壁を見たのが以下の右の画像で、緑色の部分が『壁』、青色の部分が『床』、赤色の部分が『天井』となっている。

Chip Clipで抜ける急な斜めの壁は『床』であることが分かるだろう。

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『床』が急な斜めの形状で設置されている――これによって、他の種類と比べ判定(hitbox)が薄くなっているのだ。

それがゆえに、通常では壁抜けが不可能な泳ぎの速度(26~28程度)でも、壁を抜けることができるのである。

以上が、簡単ではあるが、壁抜け自体の原理となる。

ちなみに、今回の壁抜けはパンチを入れると簡単になるのだが、その理由は、パンチ中であれば『床』に衝突してもマリオの速度がガクッと減速しないからである。(緩やかに減速する。)

 

(2) トンネル内にワープする

続いて、なぜ壁を抜けた後にトンネル内にワープするのかを解説する。

マリオ64では、水中で『天井』に当たると下へ押し出されるように移動する仕様となっている。

例えば、ウォーターランド序盤の横の壁の一部は『天井』となっており、当たると一気に下へ移動する。

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この仕様を念頭に置いて、今回発見された壁抜けを見てみよう。

トンネル内の壁を見たのが以下の右の画像で、緑色の部分が『壁』、青色の部分が『床』、赤色の部分が『天井』となっている。

トンネル上部は『天井』であることが分かるだろう。

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実は『天井』は上へ伸びる仕様となっているため、トンネル上部の『天井』はトンネルの上側にも存在するのだ。この仕様を断面図に表したのが以下の画像となる。

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もう理解したと思うが、壁を抜けた先に『天井』があり、『天井』に当たることによって一気に下へ(トンネル内へ)移動しているのである。

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以上がChip Clipの原理であり、先のセクションで紹介した『かいぞくのいりえの壁抜け』も同じ原理となっている。

結構シンプルな原理なので、マリオ64の仕様を知らない方でも理解できたのではないだろうか。

むすび

今回は最近見つかった革命的な壁抜け『Chip Clip』を紹介した。

途中で話したが、現在、Chip Clipのパンチ有りの安定法は確立されている一方で、パンチ無しは確立されておらず運ゲーとなっている。

パンチ有りと無しで1秒程度という大きな差があるので、もしかしたら、今後、短距離カテゴリ向けにパンチ無しの安定法が編み出されるかもしれない。

さて、今回の発見はマリオ64界の中でも大きな発見となっている。

将来、この開拓され過ぎたマリオ64RTAで同じレベルの発見があるのか――今後に期待しておこう。

 

【追記】本記事を書いている最中に、Liam氏により120枚RTAの世界記録が更新された。タイムは1時間38分13秒。この記録もどこかで紹介できればと考えている。(動画はこちら)

 

※記事内で使用したスクリーンショットや図は全て自分で用意した。

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