ゲームのハードウェアによって差があるロード時間を除去することで公平に競えるとされるロード時間除去タイムですが、現実にはいくつかの問題をかかえています。ロード時間除去タイムはその問題点を把握し、対処あるいは許容したうえで採用するのが望ましい評価基準だと考えています。
この記事は RTAGamers Advent Calendar 2025 の 11 日目の記事です。
ご注意
筆者自身はロード時間除去タイムを疑問視している立場ということもあってこの記事は全体的にネガティブな雰囲気をまとっていますが、ご了承いただけると助かります。また、この記事の内容はあくまで一個人の考えとして「こうあるのが望ましいと思う」くらいの話でしかなく、こう対処すべきといったものではないことをご理解いただけると助かります。
ロード時間除去タイムとロードタイムリムーバー
ロード時間除去タイムの問題点を説明する前に、まずはロード時間除去タイムとはどんなタイムなのかを説明します。
ロード時間除去タイム:Real Time とは別の評価基準タイム
ロード時間除去タイムとは、Speedrun においてタイマースタートからタイマーストップまでのタイムからゲームのロード時間を除いたタイムのことです。
ロード時間除去タイムを順位付けの評価基準とすることでハードウェアの性能差によるロード時間の差異をなくした公平なタイムで順位を競うことができるとされています。
ロード時間除去タイムは Load Removed Time, time without load, loadless time など色々な名称がありますが、ここではロード時間除去タイムで統一します。
実際に、複数のゲームハードで発売されているゲームタイトルでは、ゲームハードによってロード時間に差異があるという検証結果が複数のゲームタイトルにおいて存在しています。また、PC 版の場合には PC のスペックでもロード時間に差異が生じることも事実です。
Speedrun を前提とした話ですが、RTA が無関係とは限らない
ロード時間除去タイムについての話なので必然的に RTA ではなく Speedrun における話となります。
ただし、リアルタイムによる順位評価を行っている RTA は必ずしも無関係という訳ではありません。最初はリアルタイムによる評価だったのが途中からロード時間除去タイムによる評価に変わることがあるからです。
ロードタイムリムーバー:ロード時間除去タイムを計測するためのソフトウェア
ロード時間除去タイムを計測するには、それ専用のソフトウェアであるロードタイムリムーバーを使用します。
ロードタイムリムーバーには 2 つの方式があります。これらはどちらも原理的にはタイマー操作自動化ツールと同じ方式ということもあり、タイマー操作自動化ツールの機能の一部としてロードタイムリムーバーの機能が提供されている場合もあります。
タイマー操作自動化ツールについてはこちらの記事で紹介しているので、ご興味があればご覧ください。
メモリ監視式
PC ゲーを前提とした方式ですが、一般的にロードタイムリムーバーと言うとこの方式を意味する場合も多い主流の方式です。
メモリ監視式はゲームとロードタイムリムーバーを同じ PC で同時に動かす必要があり、タイマーはロードタイムリムーバーに対応している Livesplit ほぼ一択です。
PC ゲーを起動している間は多くの情報が PC のメモリに書き込まれています。メモリ監視式のロードタイムリムーバーはメモリ上の特定のアドレスの値を監視して、その値によってロード中か否かを判断してタイマーのカウントを一時停止します。
現在ロード中か否かというフラグを監視するのが、メモリ監視式のロードタイムリムーバーの中でのおそらくは主流な方法です。
ロード中にロード画面を表示するゲームでは当然ながらロード画面を表示するか否かといったフラグを持っているので、そのフラグが書かれているメモリアドレスを監視するのです。
メモリ監視式ロードタイムリムーバーの例
ASL List
画面上部で features → Loadremoval とフィルターをかけると、Livesplit の Autosplitter 機能を利用したロードタイムリムーバーの一覧を見ることができます。
画像認識方式
ゲーム画面を PC に取り込むことができればコンシューマゲーでも、もちろん PC ゲーでも、ハードウェアによらず使用することができる方式ですが、メモリ監視式と比べるとロード時間除去の精度に劣ります。
画像認識方式はリアルタイムでロード時間除去タイムの計測をする他に、録画データがあれば後からロード時間除去タイムを計測することもできます。タイマーは一時停止機能があるものであれば任意で選ぶことができます。
画像認識によってロード画面を検知して、ロード画面が表示されている間はタイマーを一時停止するのが、画像認識方式の中でのおそらくは主流な方法です。
画像認識によって検知できる範囲でのみロード時間を除去できるという特性上、例えば、暗転中をロード中と定義した場合はメニュー画面を開くなどの画面遷移などもロード中だと誤検知してしまったり、逆に、特定のアイコンが表示されている間をロード中と定義した場合はアイコンが表示されないロードを検知できなかったりと、原理的にメモリ監視式と比べて検知の精度に劣ります。
画像認識方式のロードタイムリムーバーの例
Unload
Speedrun の記録集積サイトである Speedrun.com で公式に紹介されている、ロード時間除去タイム計測専用のロードタイムリムーバーです。
ロード時間除去タイム評価・ロードタイムリムーバー必須化の問題点
ここからがこの記事の本題です。
ロード時間除去タイムは本当に公平な指標なのか
ロードタイムリムーバーが検知できるロード時間
メモリ監視式であっても画像認識方式であってもロードタイムリムーバーは事前に定義された条件にしたがってロード中か否かを判定します。それはつまり、ロードタイムリムーバーが「条件を理論上定義可能な範囲」でかつロードタイムリムーバーの製作者さんが「実際に条件を定義した範囲」でしかロードを検知できないことを意味します。
ゲーム製作者さんが意図して管理しているロードもあれば、ゲームエンジンによって自動的に管理されているロードもありますが、ロードタイムリムーバーの製作者さんはそれらのロードをどこまで正確に把握して、判定条件として定義できるでしょうか?
また、実際にはゲームの作りによって左右される部分ではありますが、ロード画面が表示されている間だけがロード時間、とは限りません。
さらには、プレイヤーが操作をしている間にもロードを行う仕組みを持っているゲームもあったりしますが、仮にそのロードにハード差があったとして、どうやってロード時間除去タイムに反映するかという問題だってあると思います。
全てのロード時間を完璧に検知してロードに要する時間のみを完璧に除去する、というのは実は難しいのです。ロードタイムリムーバーはどこまで正確にロード時間を除去できるのかに疑問があるのです。
ロードタイムリムーバーの性能評価はなされているのか
ロードタイムリムーバーのロード時間除去機能の性能が実際にはどれくらいのものなのかを検証したデータを見たことがある、という方はどれくらいいらっしゃるでしょうか? 検証データがなければロードタイムリムーバーがその機能を果たせているかを評価することができないハズです。
ハード間のロード時間差をなくすことがロードタイムリムーバーに求められる役割なので、実際に複数のハードウェアで同じようにプレイした場合のロード時間を除去したプレイタイムの差でロードタイムリムーバーの性能を評価するのが現実的な評価方法かもしれません。
全てのロード時間を完璧に把握することも検知することも難しいので、実測できない真のロード時間と実際に除去されたロード時間の差を見て評価するのは現実的ではないでしょう。
しかし実際にやろうとすると、ロード時間以外のハード差の影響がないように「同じようにプレイ」することが難しい場合が多いように思います。
ロードタイムリムーバーの性能を検証しないことには実際にロード時間差が解消されているかは分からないのに、実際に検証しようとすると実は難しいという問題があります。
ロード時間を完璧に除去できさえすればハード差は解消されるのか
仮に、完璧なロードタイムリムーバーによって完全にロード時間のハード差が解消されたとして、タイムに影響するハード差はロード時間だけなのでしょうか? ゲームパッドの違いに起因する操作のしやすさだってタイムに影響するハード差といえてしまうはずです。
ロードタイムリムーバーの効果はあくまでロード時間というハード差の一部分のみを低減できるというだけで、ハード差を完全になくすものではないのです。
ハードウェアに選択の幅を持たせることで競技に参加できる人数を減らさないようにしつつ、ハードウェアによる優劣を解消する、というのがロード時間除去タイムによる順位評価の理想なのだと思います。
しかし、現実のロードタイムリムーバーにはどこかに妥協が含まれていて、ロード時間除去タイムも完璧ではない。ロードタイムリムーバーだけではハード差を完全に解消することはできない。というのが現状だと考えています。
真にハード差をなくすのであればハードを指定してコンシューマ版のみで競うのが最も公平、という結論になりかねないのではないでしょうか?
ロードタイムリムーバー必須化の問題点
ロードタイムリムーバー導入作業が参入障壁になってしまう
そのゲームタイトルの Speedrun に興味を持っていざ環境を整えようとした時に、ロードタイムリムーバーの導入で詰まって諦めてしまう、というケースを複数見てきました。
ロードタイムリムーバーの使用がルールで必須となっていると、それが初心者に対する参入障壁として働いてしまう場合があるのです。
ロードタイムリムーバーの導入ガイドが必ずしもあるとは限らない現状があります。
Speedrun.com のガイドやリソースのページ内にロードタイムリムーバーとして配布されているファイルがあったとして、そのファイルをどのアプリケーションで読み込むのか、そのアプリケーションではどうやって設定すれば良いのか。そういった説明がなされていないケースがあるのです。
簡単なものは Livesplit にゲームタイトルを入力してボタンを 1 回押すだけでロードタイムリムーバーが導入できるのですが、難しいものはロードタイムリムーバーの導入に加えて mod の導入などゲームを改造する必要があったりと、ロードタイムリムーバー導入手順の難易度はゲームタイトルによって結構な差があったりします。
導入手順がどんなに単純なものであったとしても、ロードタイムリムーバーを使うのが初めての方にとっても分かりやすい導入手順書を整備しておくことが望ましいと思っています。
筆者個人としては、仮にロードタイムリムーバーを必須にするとしても一定の基準タイムより早い記録の場合でのみ必須として、それより遅い記録に関してはロードタイムリムーバー不要とするルールを設けるのが良いのではないかと考えています。
ロードタイムリムーバーの不具合発生によって生じる機会損失
正常に動いている間は意識されにくいけれど、特にメモリ監視式において、不具合が発生して動かなくなった瞬間に襲い掛かってくる問題があります。
ロードタイムリムーバーの使用がルールで必須となっているにもかかわらずロードタイムリムーバーが不具合で動かなくなってしまうと、初心者であろうと上級者であろうと、誰も正式な記録を出せなくなってしまうという問題です。
ロードタイムリムーバー製作者さんがすぐに対応してくれればまだ影響は少ないかもしれませんが、誰も対応してくれない状態になってしまっていると下手すると半永久的に記録が提出できなくなるリスクがあるのです。
実際に、ロードタイムリムーバーが動かなくなったので記録狙いの試行ができない、という声があがっているのを様々なゲームタイトルで複数見てきました。
ロードタイムリムーバーの使用がルールで必須となっているゲームタイトル・カテゴリにおいて、記録狙いに挑戦できる環境が突如壊れてしまうというリスクを常にはらんでいるのです。
ロードタイムリムーバーの保守体制を維持できるのか
そのゲームタイトルのコミュニティへのボランティアくらいの感覚だったり誰かからの依頼だったりと、ロードタイムリムーバーの製作者さんにもいろいろなタイプがいるのですが、残念なことに、作ってそれっきりというケースが少なくないように思います。
特にメモリ監視式のロードタイムリムーバーはその性質上、ゲームがバージョンアップすると監視するメモリアドレスが変わってしまい機能しなくなる可能性が結構高いです。それなのに、ロードタイムリムーバー製作者さんが対応してくれる保証がないことが少なくないのです。
ロードタイムリムーバーの製作者さんが熱心な人であればしばらくの間は不具合対応もしてくれるかもしれませんが、それが何年も継続する保証なんてないのです。半永久的に保守をする義務を負うことを前提でロードタイムリムーバーを作る方がどれくらいいるでしょうか?
ロードタイムリムーバーをルールで必須とするならば、そのゲームタイトルのコミュニティとしてロードタイムリムーバーの保守体制を維持すべきだと思っています。(ここだけは「望ましい」ではなくて「すべき」と考えています)
それ以降ずっとロードタイムリムーバーを保守し続ける覚悟もなしに、ロードタイムリムーバーの使用を必須化すべきではないと思っています。
ロードタイムリムーバー使用の義務をプレイヤーに課すならば、モデレーターさんには、それに必須なロードタイムリムーバーが正常に動作する状態をちゃんと維持する義務がなければならないと思うのです。
まとめ
理想のロード時間除去タイムの在り方に対して、「現実のロード時間除去タイムってそんなに良いものでもないよ」というネガティブな内容ということもあり、異論反論があって当然と思っています。
ロード時間除去タイムをただ批判したくてこの記事を書いた訳ではなく、ロード時間除去タイムの理想と現実との差を理解して、現実にある問題点を把握して、その問題にどう対処するかを考えて欲しいと思ってこの記事を書きました。
- ロード時間除去タイムによる順位評価はハード間のロード時間差をなくして公平に競うことができるとされている
- ロード時間除去タイム計測をするためにロードタイムリムーバーというツールを使用する
- ロードタイムリムーバーによるロード時間の除去は完璧ではない
- ロードタイムリムーバーの性能やロード時間以外のハード差も考慮すると、ロード時間除去タイムだけではハード差はなくせない
- ロードタイムリムーバーを必須とするなら導入手順書を整備してほしい
- ゲームのバージョンアップなどでロードタイムリムーバーが動かなくなることがある
- ロードタイムリムーバーを必須とするならその保守体制をコミュニティとして維持すべき
ロード時間除去タイムを疑問視する立場から色々と書きましたが、ゲームタイトルごとのほとんどのコミュニティにとって筆者自身は単なる部外者でしかありません。
そのゲームタイトルのコミュニティがロード時間除去タイムによる順位評価に納得しているなら部外者が意見することではないのは大前提です。
それでも、ロード時間除去タイムによる順位評価を採用するならば初心者に対して優しくあって欲しいし、プレイヤーに義務を課すなら管理者としての義務を果たすべきだと思います。
ロード時間除去タイムによる順位評価の導入を検討していたり、ロードタイムリムーバーをルールで必須にしようと検討している方がいらっしゃったら、ここで書いた問題点を考慮して欲しいなと思います。
次はどんな記事でしょうか、お楽しみに!



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